第25章 余裕な彼
時を戻すこと三日ほど前……
信長様と茶屋で団子を食べていると、秀吉さんがやって来て急ぎ城へ戻る様に伝えられた。
お城に戻り広間へ入ると武将達は既に集まっていて、ギラギラと闘志を漲らせている。
信長様はその中央を颯爽と歩き上座へと座り、私は部屋の端に腰を下ろした。
ただならぬ空気に、ほんの少し前まで茶屋でデートしていた甘さも吹き飛んで行く。
息を詰めていると、
「堺に潜伏している慶次から文が届きました」
秀吉さんが文を掲げて信長様に渡した。
「慶次…………?」
(誰だろう……?)
「前田慶次。織田軍の武将で今は堺のとある場所に潜伏している」
私の疑問に秀吉さんが答えてくれた。
「前田慶次…」
その名前は聞いたことがあるけど…、織田家の一員だったのは知らなかった。
「秀吉、中身を読み上げよ」
信長様は手にした文を再び秀吉さんに渡した。
「はっ!」
秀吉さんが読み上げた内容によると、堺にある商館に、ここ数ヶ月の間で大量の武器が頻繁に運び込まれているらしく、その商館の館長がどうも元織田軍にいた帰蝶という人物だと言うことが分かったらしい。
「帰蝶か。懐かしい名だな」
表情を変える事なく信長様はポツリとその名を口にした。
(帰蝶…?また知らない名前だ)
「帰蝶も同じく信長様の家臣だった男。けど急に行方をくらまして所在不明になってたんだ」
今度は家康が私の疑問に答えてくれた。
「ありがとう」
「顔に出すぎ」
そしてクスッと笑われた。
「うっ……」
(そんなに顔に………出してるんだろうな…多分)
命を張って生きて来なかったし、誰かの顔色を伺ってなんて事を覚えたのは社会人になってからだから、生まれた時から身につけて来たであろう武将達のようにコントロールなんてできない。
(でも信長様の表情はよく分かるんだけどな)
拗ねた時とか私に呆れた時とか、あとは夜…何を望んでるかとか……
「……って、わぁっ!こんな時に何を考えて」
とうやら、表情のコントロールもできなければ心の声の制御も不能らしい…
信長様との夜の乱れたシーンを思い出し、思わず大声が漏れた。