第24章 エゴサーチ
ここの所、安土城内はとてもざわついている。
と言うのも…
「今川のお姫様かぁ〜」
「お綺麗だなぁ〜」
「何とも言えない気品が漂って…ありがたやー」
と、楓の存在が城中の男の人たちの視線を釘付けにしているからだ……
そして、
「見て見てこの髪っ!楓様を真似して見たのだけど…」
「私は帯の締め方を真似して見たわ」
「私はね……」
と、騒いでいるのは男性陣だけでなく女性陣も同じで、とにかく安土城内は高貴な今川の姫、楓フィーバーとなっていると言っても過言ではなかった。
でもとても納得だ。
「伽耶、手が止まってる!」
「あっ、ごめんなさい」
私の侍女兼教育係となった楓は本当に綺麗で完璧でそつがない。
「止め跳ね払いはしっかりと!」
「はっ、はいっ!」
そして厳しい……
「あんた、楓なんかに叱られてんの?」
手習いをする私の後ろから家康の吹き出して笑う声がした。
「家康っ!」
「楓も、よくそんな涼しい顔して教えてられるね。あの今川屋敷の中で一番姫という存在に遠い姫だったのに…」
「やっ、それは言わないで下さい。家康様……」
楓の顔は途端に真っ赤に染まる。
この城内で彼女をこんな顔にさせる事ができるのは家康だけだ。
「それ、」
「え……?」
「家康で良いって言ったでしょ。何で伽耶は呼び捨てで俺は違うわけ?」
そして、家康にこんな拗ねた顔をさせることができるのも楓だけだ。
「い、家康……」
「そう。あと敬語も禁止!」
「わかりまし…分かった。がんばる!」
「何それ、頑張ることなの?」
そう言って家康は笑った。
(わあっ!笑った!それも極上の笑顔で……)
私に笑ってくれたわけじゃないのに、目尻を下げて優しく笑う家康にドキンとしてしまう。
「あ、私お茶入れてくるね」
二人っきりにしてあげたくて、私はサッと立ち上がり廊下へと出た。
チラッと後ろを振り返ると美男美女のカップル。
(まだ付き合ってはいないらしいけど)
そして二人は好きな人にしか見せないとびっきりの笑顔を浮かべて話してる。
「はぁ〜素敵だな」
「何が素敵なんだ?」
「え?好きな人にしか見せない笑顔ですよ…って、信長様?」