第18章 未来を知る者
「あ、えっと…」
見知らぬ男性、しかも久しぶりに目の覚めるようなイケメンの登場!
紫がかった黒髪に、若草色に近い瞳の、目の下の隈が気になるちょっと不健康そうな(失礼かな)イケメンだ…
「この近くの農家で牛を飼っている所が何軒かはある、バターは無理だが牛乳は手に入る。スイートポテトも作れるだろう」
「あ、そうなんですね」
政宗と同じで料理イケメンなのかしら?
急に現れたイケメンの助言に政宗を思い出した。
「あの…ご親切に教えて頂きありがとうございます……」
とりあえずお礼を伝えてみる。
「あの男は優しいか……?」
「え?」
「お前にすっかり骨抜きにされているようだが、少しばかり愛することを知った所であの男の業は拭えぬ」
「……っ、あなたは誰ですか…っ?」
見惚れるほど綺麗な顔からは、信じられない事に信長様の悪口が飛び出した。
(信長様を憎む人…?)
「直に分かる」
「分かるって、どう言う事ですか?」
「今の内に甘やかされておくんだな」
目を細めて薄ら笑いを浮かべるその表情に背筋がゾッとした。
「……っ、」
白い外套を翻してその男が去っていくのを、私は固まったように見つめるしか出来なかった。
「伽耶待たせたな」
男の姿が見えなくなるのと同時に、信長様がお店から戻って来た。
「あ、信長様…」
優しく見つめてくれる顔にホッとする。
「如何した?」
私の異変を感じ取った信長様が顔を顰めた。
「っ、何でもありません。頂いたお芋をどう調理しようか考えてただけです」
信長様を悪く言う人の事なんてわざわざ伝える必要はないと思い、私は咄嗟に誤魔化した。
「ふっ、団子を食ったばかりでもう次の甘味のことか?」
縁席に座ったままの私の腕を取り立たせると、そのまま腕の中に閉じ込めた。
馬の上でキスをするのも、こんな人通りの多い城下町の茶屋の前で抱きしめられる事も、以前の私からは想像のつかない事で…
本当にこの時の私は、無限に与えられる愛情の中で幸せに溺れ過ぎていて、さっきの男性がバターとかスイートポテトとか、この時代にはない言葉を普通に言っていた事に疑問を持つことはなかった。
そしてこの時の事を信長様に言わなかった事を後悔する日が来るなんて、その時の私は露ほども思っていなかった。