第18章 未来を知る者
よく、釣った魚に餌はやらないなんて男の話を聞く。
付き合うまでは優しくて積極的だったのに、付き合った途端に態度が雑になってこんなはずじゃあ…とその男性に物足りなさを感じて、付き合ったことを後悔して…なんて友達の話を、学生の時も社会人になってからもよく聞いた。
大地と付き合うまで彼のいなかった私は、いつもそんな話を真剣に聞いては、(そんな人と付き合ったら嫌だな…)なんて思っていたものだ。
けど…
「信長様、お呼びですか?」
「来たか」
仕事中、広間に来いと信長様に呼ばれて行くと、広間には見知らぬ人たちと沢山の着物や装飾品が並べられていた。
「こっちへ来い」
上座に座る信長様はご機嫌な顔で私に隣へ来るよう手招きをした。
「はい」
何となくな流れを予想しながら信長様の横に腰を下ろした。
「堺から呼び寄せた商人共だ」
商品の前にピシっと座っている人たちを手で示し、
「好きなものを選べ」
と言った。
(ああ、やっぱり…)
本来ならここは、「きゃあっ、良いんですか?」と喜びたい所だけど…
「気にせず好きなだけ買え。全てでも構わん」
「で、でも信長様、私この間も買って頂いたばかりで、今必要な物は何も…」
三日前にも、京から来た商人から着物や帯、簪や化粧をたくさん買ってもらったばかり…
と言うのも、ワームホールで未来に戻るつもりだった私は、身の回りの物を信長様に返すか人にあげてしまったため、数日間は化粧をすることもできなくて困っていた。(信長様に返却したものは再び頂いた)
それに気づいた信長様が私を城下町へと連れて行ってくれ、「好きなだけ買え」と、人生一度はやってみたいと夢見ていた、”ここからここまで全部ちょうだい”みたいな事が現実に起こった。
もちろん、必要なものだけを買ってもらったので買い占めるみたいな事はしなかったけれど、その後もちょくちょく今日みたいに商人の人を城に招いては、私に何かを贈って下さろうとしていた。
そう、信長様は釣った魚に餌をやらないのではなく、やり過ぎ甘えさせ過ぎなタイプで、私の部屋には日々その贈り物が増えていて使いきれていなかった。