第17章 恋仲修行 〜秀吉目線〜
「わ、私は別に全部を知らなくても、信長様の事が好きですよ?」
「っ、そんな事は当たり前だ」
伽耶の言葉で、今度は信長様が口元を緩めた。
(二人して何やってんだ?…と言うか、信長様にあんな顔をさせられるのは伽耶だけだな)
長いこと信長様に仕えてきた俺でさえ見たことのないあの顔を引き出せる伽耶が正直言って羨ましい。
「もっと俺に興味を持て。貴様は…俺だけを見ておれば良い」
伽耶の手を取った信長様は、そのまま指を絡めて壁に押し付け伽耶に口づけた。
「んっ、…だめっ、ここでしないでっ!」
(伽耶、その通りだ!場所をわきまえて頂くよう強く言って差し上げろっ!)
何事においても常に堂々と振る舞われる信長様は、伽耶への愛情表現も場所を問わず隠す事なく堂々とされる為、城の者たちは目のやり場に困る事があり、それが日毎に増えている。
「ダメは聞かん。俺から逃げた仕置きは受けねばならんからな」
「…っ、イジワル」
(おい伽耶、早すぎるだろっ!)
伽耶は思いの外早く抵抗する事をやめて口づけを受け止めはじめた。
「……ん」
食い入るようにその光景を見ていると、伽耶に口づけながらもこちらをチラッと見た信長様と目があった。
「ふっ」っと言う笑いが聞こえたような視線を俺に向けると、スパンッと、その部屋の襖が閉められた。
(……っ、あれは暫くは出てこないつもりだな…)
「はぁ〜、」
当分、あの部屋の周りの人払いをしなければならなくなった。
大体伽耶も、なんであんな近くに逃げ込んだんだ?
まるで見つけてくれと言わんばかりの伽耶と、逃げた後の仕置きを楽しみにしている信長様の二人の惚気に当てられた俺は、手にした書簡と文を手に天主ではなく自室へと戻る羽目に…
「先ずは、伽耶に逃げる事をやめる様に言い聞かせるべきだな」
あいつが逃げる度にあれでは城の風紀が乱れて仕方がない。
だが、あんなに楽しそうな信長様は見たことがないのも確かで…
「しばらくは目を瞑るとするか…」
伽耶が一刻も早く信長様の恋仲という立場に慣れてくれること願いながら、俺は人払いを女中たちに伝え部屋へと戻った。