第17章 恋仲修行 〜秀吉目線〜
〜昼下がりの安土城〜
信長様宛の書簡と文を手に天主へと続く廊下を歩いていると、ドタドタドタっと、騒がしく階段を駆け降りる音が聞こえてきた。
(また伽耶だな…)
この城で大きな音を立てるのは、怒りを露わにした時の信長様と、その信長様の思われ人である伽耶だけだ。
そしてここ最近は十中八九伽耶がその音を立てていた。
騒がしい足音はどんどん俺の方へ近づいてくる。
思った通り、天主の階段を降りきりこっちへと走ってくる伽耶の姿をとらえる。
「おい、伽耶、廊下は静かに走れといつも…」
「秀吉さんごめんなさいっ、気をつけますっ!」
最後まで俺に言葉を言わせることなく謝罪の言葉を口に出して前を走り去って行く伽耶…
(絶対に悪いと思ってないだろ…?)
あれは直す気はないなとため息を吐いていると、
「秀吉、伽耶はどっちへ行った?」
今度は信長様が涼しげな顔で音を立てることもなく天主から降りてきて俺に声をかけられた。
「伽耶なら今のいま、廊下を全速力で駆けて行きましたけど…」
「ふっ、無駄なことを」
信長様は腕組みをして楽しそうに口角を上げる。
「どうされましたか?」
「いつものことだ。伽耶に逃げられた」
逃げられたと言うのに、信長様は心底愉快そうに笑っている。
「またですか?今回は何が理由で…?」
「鷹狩だ」
「鷹狩りですか?」
「ああ。暇だと言うのでな」
「それで…鷹狩りに……?伽耶を連れて行くおつもりだったんですか……?」
「そうだ。だが鷹が怖いらしい。しかも獲物を捕食する姿はもっと見たくないと言って逃げていきおった」
(まぁ、そうだろうな…)
鷹狩りは武家の嗜みではあっても、女の好むものではないからだ…
女に不自由も苦労もされたことのない信長様だが、女を喜ばせようとされたこともなかっただけに、伽耶の為と思ってされた事が時に逆効果となり、逃げられる結果になっている。