第12章 戦
「伽耶様、今朝はこちらで朝餉をとられるのですか?」
朝餉の手伝いを終えた後、広間へと行かず厨の隅で朝餉を食べる私に、厨番の一人が尋ねた。
「あ、はい。今日はちょっと早く食べてしまいたくて…」
やっぱりここで食べてたら気になるよね。と思いつつも私はまたお箸を動かしてここで食べる事をアピールする。
「そうですか。伽耶様も毎日お忙しいですものね。時間はなくてもしっかりと食べていって下さいね」
ニコッと笑う厨番の笑顔に、(嘘をついてごめんなさい)と心の中で謝った。
別に今日は忙しい訳じゃない。朝餉だって広間で食べることもできる。ただ、信長様と会うのが気まずいだけ…
昨夜キスしてしまったこともそうだし、その後の晩酌の誘いも体調不良だと嘘をついて断ってしまった。だから、どんな顔して会えばいいのか分からず、とりあえず朝餉さえ逃げ切れれば今日はもう顔を合わせなくてすむと言う安易な考えから、ここで朝食をとらせてもらっていた。
なぜ逃げるかと聞かれれば答えは簡単だ。
祭りの夜、信長様の事が好きだとハッキリ認識してしまったから…
突然のキスには驚いたけど嫌じゃなかった。むしろもう一度された時には離れていく唇に物足りなさを感じてしまったくらいで…
好きにならないと言い聞かせて来た脳はもうそっちの気持ちには機能しない。心が好きだと思ってしまったら最後、好きだと言う思いに侵食されるのみで止める事はできない。
でも、この気持ちを信長様に伝えるわけには行かない。
だってまだ未来に帰りたい。
信長様は好き。
でも全てを失っても好きでいられる自信はない。
旅先で出会った男女が恋に落ちると言う、よくあるひと夏の恋。きっとこれはそんな恋。だからこれ以上好きにならないようにしようと、私はない知恵を絞り、とりあえず可能な限り信長様から逃げる事にした。
「…でも、ずっと逃げるわけにもいかないよね…」
こんな状況をあとひと月も続けられる訳がない。
「そうだな。逃げるなど無駄だ」
「そうですよね。私も分かって………へっ!?」
独り言に答えが返ってきた!?