第11章 晩酌③ 〜祭りの後編〜
「褒美は確かにもらった」
名残惜しさを感じ、奴の頬に指を滑らせ肌も味わった。
「……っ、私、良いって言いました?」
花火に時折照らされる奴の顔は恥じらいで真っ赤に染まり、瞳が僅かに潤んでいる。そんな顔にもまた胸が疼いた。
「ふっ、隙を見せた貴様が悪い」
地面に落ちた伽耶のおにぎりを拾い上げ、
「新しいのをもらって来てやる」
己の顔が熱くなっていることを気づかせない様、俺は握り飯を取りに行くと言ってその隙に熱を冷ました。
花火が終わり、祭りが終わった後もまだ伽耶と過ごしたい思いに駆られた俺は、奴を晩酌へと誘った。
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「結果はこれだがな…」
祭りの時には逃げなかった奴にもしやと期待したが、やはり逃げられた。
「まぁ良い。今宵は此奴と飲む事にする」
祭りが終わり静まり返った安土の夜を眺め手酌酒を煽る。
清洲、小牧山、岐阜、安土…
これまでは手に入れた領土を眺めながら酒を飲めれば良かったが…
「ふっ、女を本気で欲する日がこの俺に来るとはな…」
誰かの笑顔をあんなにも綺麗だと思ったのも、その笑顔を己だけのものにしたいと思ったのも初めてだ。
『“気に入っている”と”好き”は同類ではありません』
伽耶の言葉を思い出す。
「確かにそうだな。気に入っていると好きは同類では無い」
気に入っているだけでは、こんなにも焦がれはしない。
だが今日はっきりと分かった。
「伽耶、俺は貴様が好きだ」
嘘偽りのない態度や言葉を、綺麗な笑顔を向ける貴様に、俺はどうやら心を奪われているようだ。
だから貴様を本気で手に入れたくなった。
「駆け引きは終了だ。俺は本気で貴様を手に入れに行く」
貴様を未来に帰す気はない。
「逃してやるのは今夜だけだ」
貴様がここに、俺の元に残りたいと言わせてみせる。
「今夜はゆっくりと眠っておけ」
狙った獲物は逃さん。それが惚れた女なら尚更だ。
伽耶に触れた唇の熱を思い出しながら、俺は一人、奴の分の酒も飲み干した。