第2章 竹の巻
日が高くなり、去って行ったお大尽の車と入れ替わりにやって来たのは、着物や宝石、部屋の調度類を山積みにした荷車数台!
全部「乙比女」のものだ。
ちょっとしたお金持ちのお嫁入りみたいだねえ。
何事かと他の娼妓たちが廓の窓という窓から顔を覗かせているよ。
一流の髪結いも呼ばれてやって来たね。
当然今日から乙比女は大部屋から出されて、最上階の個室を与えられた。
ざんばら頭の夜鷹と見間違えそうなナリだった妓が一夜にして絹と宝石に彩られてまるで帝の妃と見紛うほどになったね。
「またしばらくお大尽様は来れないそうだけど、これからは客を取らせろって話だったよ。何考えてるんだろねえ、あの狸おやじは。」
相変わらずの口の悪さだが、大金を手にした領殿は上機嫌この上ない。
実は今朝お大尽は廓を発つ前に乙比女にこう言い残していったのさ。
「娼妓の頂きに立つのならばどんな客でも満足させられる様じゃないとな!」
「領、どんどんお客回してくれない?皆が嫌がる様な変な奴でもいいわ。一晩一人じゃ足りないからさね!」
「乙、気合い入ってるのはいいことだけど最早お前さんはこの廓の「金づる」だってこと忘れるな。無理はダメだよ。」
領殿の言葉には聞く耳持たず。乙比女は働きに働いているね。一晩に二人三人は当たり前。多い時だと五人は相手しているよ。
指名客も出てきたねえ。初見世からおおよそひと月しか経ってないのに異例の大出世だよ。
火の車だったこの廓も乙比女の稼ぎで大入袋を出せるまでとなったよ。何年もほったらかしにされてた私も植木屋を呼ばれて綺麗にしてもらって何ともありがたいことだね。
だけどこう目立って出世する者には「やっかみ」がツキモノだね。
「鈴音」という気の強い娼妓にさっそく目をつけられたよ。
ある日浴場から出てきた乙比女はあっさり鈴音の手下たちに捕まってじまった。
裸のまま羽交い締めにされて庭に連れ出されて、おやおや私のカラダに荒縄で縛りつけちまったよ。
何度も云うけど、こういうことに私のカラダを使って欲しくないんだがね。
乙比女の身動きが取れなくなったところで「鈴音」が悠々と現れたよ。
満面の笑みをたたえて鈴音は乙の顎を取る。
「乙、何もあたしらはあんたを苛めようってんじゃないんだ。ちょいと勉強させてもらおうかと思ってね。」