第2章 日常が壊れる日
そんな私はこの施設に入る前の8歳から13歳までの5年間、精神科病棟で過ごしていた。
当時8歳だった私は母を亡くしたショックから心を病み、記憶を失い、自傷行為を繰り返していた。
今でも当時の記憶は思い出す事は出来ないけど、献身的なカウンセラーさんや先生方のお陰で普通の生活が送れるまで回復した私は、
中学に入学するタイミングで今の養護施設に入り、ここでの生活が始まった。
食堂からトントントン、と小気味良い音が聞こえてくる。
鼻をスンと鳴らせば卵焼の良い匂いを微かに感じ、思わず口元を綻ばせながら食堂へと足を向けた。
『おはようございます』
「、おはよう。今週の当番宜しくね〜!・・・あら、あかりは?」
早苗さんが鍋を火に掛けながら私の後ろを確認する。
『いつもの低血圧です。頭痛が治まったら来ますよ。』
当番をサボると1週間のトイレ掃除が課せられる為、嘘がバレないよういたって平然とした口調で応えた。
「10代のうちから大変ね〜。じゃあ配膳終わったら下の子達、起こして来てくれる?」
『はい、分かりました。』
内心ホッと胸を撫で下ろし、カウンターに並べられたお皿をテーブルへ運んでいく。
早苗さんはこの施設の施設長、謂わば子供達の母親的存在だ。
50代半ばの早苗さんはいつも明るく、パワフルな人で、この施設で暮らしている下は7歳から1番上は私とあかりちゃんまで、計8人を分け隔てなく面倒を見てくれている。
ここに住む子達はそれぞれ訳ありだ。
親と死別した子、虐待を受けた子…
そんな中、身寄りもなく、精神に問題を抱えた私を早苗さんは目尻に皺を寄せ、温かい笑顔で迎え入れてくれた。
質素な生活だけど、施設で過ごす時間が私の心を徐々に癒やしてくれた。