第6章 調査報告
ーーーあの日の事は途中までは覚えてる。
近所の神社で七夕祭りがあった日。
連日続いた雨も嘘のように、その日は朝から晴れていた。
お母さんは町内会で出す屋台の準備を手伝っていて、私はそんなお母さんの後ろをずっと付いてまわってた。
お祭り始まったら一緒にお店回ろうね、と笑うお母さんの顔は今でもハッキリと覚えている。
夕方になり、お祭りが始まり人が増え始めた頃、それまで良かった天気が一変、雷雨に変わった。
雨は激しさを増し、お祭りは中断した。
地割れがしたかのような雷の音に私は怯えお母さんの足元に縋り付いていた。
その時、ふとお母さんの顔を見上げると、何かに怯えているのかひどく青白い顔をしていたのを覚えている。
ーーーーー記憶があるのはそこまで。
伊地知さんは資料を読み上げた。
「神社の脇の山が一部崩れ、大木が建物を押し潰し、大人が8人死亡。
流れて来た土砂に巻き込まれ大人1人、子供2人死亡。重症者1名。
・・・この重症者、というのはさんの事です。」
私は無意識に左手首を右手で押さえた。
「重症、と言ってもこの事故で負った怪我ではなく、お母様の後を追おうとご自身で手首を切り病院へ運ばれた。」
『・・・・はい。』
それまで黙って話を聞いていた学長が口を開いた。
「伊地知、以外の生存者は?」
「・・・居ません。神社に残っていた全員が亡くなっています。」
学長の眉間の皺がさらに深くなり、部屋の空気が重く張り詰めたものになる。
「が母親の側にいたなら一緒に土砂の下敷きになっていた筈。
なのに彼女は無傷で現場に残っていた…
これは偶然か?」
ツーー、と嫌な汗が背中を伝う。
小刻みに震える手を必死に抑えてると、隣から手が伸び、私の手を包んだ。