第6章 調査報告
資料を片手に伊地知さんはメガネを中指でずり上げると向かいに座る私に視線を向けた。
「えー…まず、確認なんですがさんは記憶の一部を失くしてる、との事ですがご両親の記憶はどこまでありますか?」
『・・・たしか私が5歳か6歳の頃、両親が離婚して、、、そこからは母と2人きりで過ごしてましたが、私が8歳の時に母は亡くなりました。』
「・・・お父様の記憶は?」
私は俯いたまま、首を横に振った。
『・・覚えてません。顔もぼんやり、、としか。』
「・・なるほど。では、、今からお話しする内容はさんの辛い記憶を思い出させてしまうかもしれません。
・・・途中、辛かったり気分が悪くなるようでしたらすぐにおっしゃって下さいね?」
『・・はい。』
伊地知さんは手元の資料に視線を落とした。
「まず…その父親ですが、、さんと血縁関係は無い、のはご存知ですよね?」
『はい…。離婚する時に母から聞きました。実の父親とは籍を入れずに未婚で私を産み、育てたと…。』
「そうですか…。
さんが3歳になる頃、お父様とお母様は結婚されました。
ですが、結婚して1年を過ぎた頃からさん父親から暴力を受けるようになった。
所謂虐待です。」
『・・・虐待、、、?』
初めて聞く話に耳を疑った。
「その反応からして虐待を受けていた記憶は無いようですね…。
そもそもご両親の離婚の原因はその虐待が原因のようです。
お母様は殴られ蹴られ続けるあなたを身を挺して守っていたようですが、日に日にエスカレートする暴力に命の危険を感じ離婚を申し出た。
そしてその日、事件が起きました…。」
『・・・・事件?』
「それまで暴力の矛先は娘のさんだけに向いていましたが、離婚届けを突き付けられた父親は頭に血が昇り、お母様の首を絞め殺そうとした…」
伊地知さんは口を噤んだ。
・・・全く覚えてない。
虐待されていた事も、お母さんが守ってくれていた事も…。
当時の事を思い出そうとしても、霞がかかっていて何も思い出せない…。