【金カ夢】夢の中で……。【Golden Kamuy】
第1章 プロローグ
トントントン…
シャキッ、シャキッ……
厨房では食材を刻む度まな板と包丁がトントン、シャキシャキと食材に合わせるように心地よい音を立てていく。
ここは少し大通りから離れ、入り組んだ道にある食事処だ。
現代にいた頃には、当たり前のようにガスを使って火を出したし、蛇口を捻れば好きな時に好きなだけ水道から水も出せた。
更には暗くなる頃にも電気が通っていたから、どこも明るかったし、夜の遅い時間でもキラキラと、街を見渡すとどこかしらが輝いていたものだ。
ある日、ふと気がつけば、そんな『当たり前』だったものが一瞬にして無くなっていた。
目を覚ますと、見慣れぬ天井。
すこしゴワゴワとした布団が視界に入った。
知らない間に眠ってしまい、夢の中へと迷い込んだのかと思ったが、自分の身を包むこの布団の温もりと、周りの音や匂いがどうにも夢とは思えなかった。
ズキリと痛む頭を抱えながら、少しづつ身を起こすと、額から少しだけ濡れてぬるくなったタオルがずり落ちた。
ユメコの眠る布団の傍らには、自分が今まで着ていたであろう洋服が洗濯され、丁寧に畳まれいるのを発見した。
どうやら自分は誰かに看病してもらったらしい……というのがわかったが、ここが何処で、いつからこんな状態なのかは全く思い出せそうにもない。
自分が寝ていた部屋を観察するようにぐるりと見回してみると、なぜだか、レトロといえばいいのだろうか。
若干、古めかしいと感じるものばかりが部屋に並べてあった。
ドアではなく、襖、障子といった感じの部屋の作り。
寝かされている布団も、軽いものではなく、厚みがあり重みもある。
天井からぶら下がる電燈も、チカチカと光りそうな豆電球のようなもののようである。