【降谷零】SPARK × PUNK【名探偵コナン】
第1章 「整備士」×「RX-7」
ポンッと、突然後ろから肩に手を置かれる感覚にびっくりして、思わず握っていた襟元を離してしまう。まるで会話を切るようなはっきりとした呼び声に振り返るとそこには先ほどまで呆然と立ち尽くしていた勝典さんがいた。
「顔に汚れが…」
そう言って不意に伸びて来た手の温かな感触に思わず肩がビクッと跳ね上がる。それに咄嗟自分の手で頬を覆うように押し当てた。
「ダメです! 汚れたら大変です!」
私の慌ただしい反応になのか、勝典さんはふっと優しく笑うと今度は頬に当てていた私の手を取った。
「今度、一緒にお食事でもいかがですか? もちろんエスコートしますよ。いつでも構いませんが、ぜひプレゼントしたマフラーを身に着けた姿を見たいものです」
「え!? いや、ほら私、綺麗な仕事ではないですし、どちらかと言えば汚れ作業ですし、勝典さんにはもっといい人が…」
そう言いながら、取られた手をそっと引き抜いた。
別に嘘は言っていない。汚れるし場合によっては自分の不注意で怪我もする。でも、こんな仕事柄女がやっているもんだから心配されたり、気を使ってもらったり、食事に誘ってもらったりなんてことや、さっきみたいに手土産を貰ったりプレゼントを貰ったことは数えきれないほどある。
特別美人でも可愛いわけでもないはず。だから私なんかよりも、もっと財閥のお嬢様とか、もっと美人で可愛い人とか、汚れ仕事じゃない人とかの方がどちらかと言えばお似合いだ。それも勝典さんなら尚更。
「それで、いつまでに直せますか?」
するとまた背後から切り詰めるような問いが降りかかる。
「予約したお客様が優先なので、言い訳は後でゆっくり聞くから居間で待ってて」
「どれくらいかかるんですか」
先ほどよりも低い声の問いかけに、私は思わずグッと息を飲んだ。
何をそんなに怒っているのか、仕事で寝不足でイライラでもしているのか。分かりやすくなぜか不機嫌な態度の降谷くんに私は一つ小さな為をすると人差し指と中指を二本突き立て降谷くんの顔の前にずいっと突き出した。