第11章 揺れる
その夜、
仕事を終えて自宅に帰った私は、1人で晩酌をしていた。
今日は満月で明るかったから、豆電球にして少し薄暗い部屋で月を眺めながらグラスを傾けている。
お供はバーボン。
普段はビールなどの苦味のあるものを好んで飲むのだが、今日はウイスキー、特に甘いものが飲みたい気分だったので帰りに買ってきた。
中の氷が形を変えながらカランと音を鳴らす。
「あ、そうだ」
他には誰もいない部屋で1人呟くと、私は仕事のカバンの中を漁りにたった。
たしか入れていたはずだ。
あった。マイルドセブン。
松田がよく好んで吸っていたタバコの銘柄。
タバコはあまり吸う方ではないが、何となくお守り代わりにいつも持ち歩いていた。
たまに気が向くと吸っていたくらいなので、中身が全然無くなっていない。
青いパッケージがやけにキラキラして見えた。
ベランダにグラスを持って行って、タバコをく 咥えて火をつける。
大きく息を吸って、吐いた。
苦いな。
そして置いておいたバーボンを1口飲む。
タバコの苦さとのギャップに、先程よりもさらに深く芳醇な甘みが口に広がった。
これ、ちょっと癖になりそう。
私は再びタバコを加えて、グラスを掲げて月にかざした。
満月の光が鮮やかな茶色を抜けて私を照らす。
「会いたいな」
零れた言葉は、煙と共に少し肌寒い空へと消えていった。