第42章 決意と
【降谷side】
あれから1ヶ月が経った。
あれ以降、あの家に帰れたのは数回。ベッドで寝られた回数は片手に収まる程度だ。もちろんとも会えていないどころか、連絡すら取れていない。
ここ最近は組織の任務に追われる毎日である。キュラソーのNOCリスト奪取により複数の諜報員が抹殺されて以降、新たな人員補充を廃止。また、ジンによる独断のNOC狩りや組織内抗争によりさらに人員が激減。情報屋の僕にさえ汚れ仕事が回ってくる始末だ。
だが、これこそが好機でもある。
世界各国が、この組織の現状に目を光らせ、着実に壊滅への道を切り開こうとしている。もちろん、日本も例外ではない。
僕は今、重大なその一角を担っている。
ほんの少しのミスが、全てを水泡に帰す。失敗は許されない。
今夜控えている任務の標的は、とある巨大企業の社長。表向きは経済界の重鎮として君臨する男だが、裏では違法な取引に手を染めている。
組織とも長年裏取引を行ってきたが、今回は話が違った。彼は組織を裏切り、取引の情報を外部へ漏洩した。
組織に関わった以上、それは死を意味する。
今夜、彼は政財界の有力者を集めた夜会を主催する。
親睦を目的としたパーティーとは名ばかりで、実際は裏取引やその情報交換が横行している黒い場である。
参加者はみな連れを伴うのが暗黙の了解。
この任務を指示してきたのは、ベルモットだ。恐らくは僕を彼女の付添人として同行させるつもりなのだろう。
いつもなら指定された場所まで車を走らせ彼女を迎えに行くのだが、今回は単身会場へ来るようとの指示だった。
だが、どれだけ待っても彼女は現れない。何度も腕時計を確認して、その長針が動く姿を眺める。
さすがにこれ以上入り口で待つのは不審に思われるため、仕方なく先に単独で潜入することにした。
「連れは後ほど合流する」
そう受付に伝え、会場へと足を踏み入れる。
煌びやかなシャンデリアの下、各界の大物たちが談笑し、ワイングラスを傾けている。ホールの隅では、クラシックの生演奏が響いていた。
標的の姿を探しつつ、さりげなく会場を見て回る
毎度のことながら、ベルモットは一体何を企んでいるのか。