第40章 絡繰箱
「あ、ごめんなさい。今日は車で来てまして…。また後日でもいいですか?」
今日は捜査協力という名目のため、生憎だが警視庁の車で来ていた。流石に鈴木図書館の駐車場に放置は出来ない。
「……沖矢さん?」
「いいですよ」の言葉を待っていたが、その言葉が中々出てこなかった。
いつもなら私の都合をすぐに受け入れてくれるはずだが、今はどうしてか神妙な顔のまま少し俯いている。
なんだか心配になって、顔を覗き込んだ。
すると沖矢さんは瞼を閉じたまま私と目を合わせ、徐に口を開いた。
「……今日では、ダメか?」
予想外の返事。
いつもとは違う沖矢さん……いや、赤井さんの様子に私は面食らった。
「…分かりました」
しばらく考えた後、出てきたのはこの返事だった。
どんな話を聞かされるのか全く分からないが、少なくともこんな様子の赤井さんを放って帰ることなんて出来ないだろう。
車は……仕方がない、青柳に回収しに来てもらうか。
その場で青柳に連絡すると、二つ返事で了承してくれた。
やはり、持つべきものは頼れる部下だ。ありがたい。
「車は部下が回収してくれることになりました。このまま沖矢さんの車に乗せてってもらってもいいですか?」
「えぇ勿論です」
スマートに助手席のドアを開けてくれる沖矢さんに会釈して車に乗り込む。
この車に乗せてもらうのも、これで何回目になるのだろうか。
そんな事を考えてる間に、沖矢さんは運転席に乗り車は静かに発進した。
もうとっくに日が落ちた時間帯。次々に通り過ぎていく街頭をぼーっと眺める。
珍しく、車内は沈黙に包まれていた。
互いにお喋りという訳では無いが、こうやって2人きりになるといつもは何の気ない会話が始まる。だが今は、そんな気配は一切ない。
少し気になって、運転している横顔に目をやった。
真っ直ぐに前を見つめるその姿は、やはり何かを話し出す気はさらさら無いように思える。いや、何か考え込んでいるのか。
とにかく、今この人に話しかけるのは止した方が良さそうだ。
そう思って、私は再び窓の外を流れる景色に目を移した。
……“言わなければいけないこと”、か。なんだか少し、嫌な予感がするな。
ふと、そんな事が頭をよぎった。