第40章 絡繰箱
東京サミット、及び無人探査機はくちょうの事件から約ひと月が経過した現在、警視庁は全体として通常の業務に戻り始めていた。
かくいう私も家に帰れない日々から無事脱却し、ここ最近は書類作業に追われる日々を送っている。
今日も今日とてパソコンとにらめっこだ。
「さん、最近ずっと嬉しそうですよね」
「え?」
「2日間の休暇明けからですよ。
なんか鼻歌よく歌ってるし、心做しか足取りも軽い」
「そ、そうかな?」
「何かいいことありました?」
作業の合間の何気ない会話のはずなのに、なんだか自分を見透かされている気がして居心地が悪くなる。優秀な部下を持つのも考えものだな。
ていうか私、鼻歌歌ってたんだ。完全に無意識だったわ。
「別に、ただ普通に休んでただけだけど」
警察庁の機密組織の男の名を、そう簡単に出す訳にはいかない。
そうでなくとも「連絡先を教えてもらえたのが嬉しくて舞い上がってました」なんて馬鹿正直に話せる訳が無い。
警部である私の威厳に関わる。
「…隠すってことは、俺は発破をかけた甲斐があったってことですね」
青柳が静かにそう呟いた。
「え、なに?どういうこと?」
「いいえ、こっちの話です。
それよりさん、捜査協力の要請が来てます」
それより、と簡単に片付けられてしまい少々不満は残るものの、仕事の話をされちゃ聞かざるを得ない。
「捜査協力ってどこから?ICPO?」
「いえ、鈴木次郎相談役です」
「……え?な、なんで?」
「さぁ?俺も詳しくは分かりませんが、とにかくさんに協力してもらいたい案件があるらしいです」
鈴木次郎相談役とは数回しか顔を合わせていない程度の間柄だが、一体何を協力するというのだろう?
……まぁ、何となく察しは付いているけれど。
「分かった、承諾しておいて。日時と場所は?」
「明日の夕方頃から、鈴木大図書館に来て欲しいとの事です」
「明日か…これまた随分と急ね」
相談役らしいというか何と言うか。
これは、明日の朝刊は見逃せないな。