第34章 悪夢のつづき
リニューアルオープンしてから早2日で東都水族館は再び休業を余儀なくされた。
あれだけの規模の事件だ、再オープンまでは相当な時間が掛かるだろう。
「……おかしい」
そして数日後、私は事件の報告書に目を通していた。
____『死亡 0人』
刑事課から無理やりかっぱらってきた報告書には、確かにそう記載されていた。
連日のテレビや新聞でも、軽傷者は数十人に及んだが重傷者及び死亡はゼロと報道されている。
明らかにおかしい。
だとしたら、私があの時見たクレーン車の運転手は一体何だったのか。
身を呈してまで多くを救ったあの人物の存在が、何故なかったことになっているのか。
こんな風に事実とは異なる報告書を作成出来るのなんてこの世でたった1つ、公安しか有り得ない。
そして、その公安が報告書を改ざんしなければいけなかった理由ーー…そう、組織だ。
そうなれば、あの運転手は組織のメンバーであったあのオッドアイの女性だったという事だろう。
だが分からない。
組織とは、人の命を奪うことに一切の躊躇がない残忍非道な集団なのではないのか?だとしたら、何故あの女性は自分を犠牲にしまであの転がる大観覧車を止めたのか?
うーん、ますます分からない…。
行き詰まった私は、徐に携帯を取りだした。
こういう時こそまずは情報収集だ。
腕時計で今の日本時間を確認する。
……16時か、なら大丈夫だな。
そうして私はとある人物に電話を掛けた。
数回のコールの後、ガチャと電話を取る音がする。
「Salut! ça fait longtemps, Iris」
(やぁ!久しぶりね、イリス)
「J'ai été surpris. Je ne m'attendais pas à avoir de vos nouvelles.」
(びっくりした。あなたから連絡が来るなんて思いもしなかったわ)
彼女の名前は Īris Legrand(イリス・ルグラン)。ICPO本部で事務員をしている。
1年半前、私がICPO本部へ派遣された際に何かと世話を焼いてくれた友達だ。私よりも3つ年上のお姉さんで、仕事が出来る上に超美人。当時は彼女に沢山お世話になった。