第29章 桜と追憶
「何なの?ポケットに入ってたこの気味悪い五円玉…」
「それは黒兵衛というスリの置き土産のような物でして」
「え?ウソ!?じゃあ私、スリに掏られてたの!?」
そう言ってカバンの中身を確認した女性は茶色い長財布の持ち主、段野頼子さん。
「財布が無いのはさっき気づいて、警察に届けようと思っていた所でして」
ガラガラ声で話すのは黒い2つ折の財布の持ち主、弁崎桐平さん(ゼロ)。
「まぁ中身は大して入ってなかったから、くれてやってもよかったが」
杖を着きながらそう話すご老人は赤いがま口財布の持ち主、坂巻重守さん。
「そのスリ、捕まえたのかの?」
「いや、先程遺体となって発見されました」
「「「えぇっ!?」」」
「我々はあなたがたの中に犯人がいると睨んでいるんですがね」
目暮警部のこの言葉に、困惑を隠せない様子の3人。
一先ず、3人のボディーチェックと所持品や携帯電話の確認が行われた。
「阿笠さん、あの3人の中にあなたが見た犯人はいます?」
「ウーム、杖を着いた老人が怪しいが、犯人が持っていたのは30センチぐらいの棒で杖じゃなかったし、犯人が被ってた帽子は登山帽のようじゃたがそんなの被ってる人はおらんし、あの中年の男のような咳もしておらんかったよ」
「では、歩き方はどうです?」
「ウーム、あの老人は足を引きずるというか杖がないと本当に立っておられんようじゃし、若い女性も中年の男も足を引きずっている様子はないのォ」
「そうですか…」
その後、隈無く捜査が行われたにも関わらず凶器は一切見つからなかった。
もちろん3人も所持しておらず、老人の杖も凶器に使われた痕跡はなかったという。
さらに携帯電話を調べたが、発信機を追跡するようなアプリも入れている人はいなかった。
まぁ、調べられるのを見越して消してしまったとも考えられるが。