第29章 桜と追憶
「それで、黒兵衛が撲殺される所を見たというのは本当ですかな?阿笠さん」
「え、えぇ。
トイレで用を済ませてここを通り掛かった時に見てしまったんじゃが、ここは木陰で暗くて、最初は杭でも打ち付けてるんじゃないかと思ったよ」
「では、犯人の顔は?」
「殆どシルエットじゃったからのォ。
帽子を被っていたことと、長さ30センチぐらいの細い棒を持っていたのはわかったが…」
となると、その30センチ程の棒が凶器と考えて間違いないな。
「他に、犯人の特徴とか覚えています?」
「そうじゃのォ。
おぉそういえば!犯人が立ち去った時に少々足を引きづっておったわい。大丈夫ですか?と声を掛けたくらいじゃから。
その後は、ワシを無視して行ってしまって、その人が打ち付けていたのがあの女性だと分かった時にはもう人混みの中に…」
足を引きづっていた、か。
一刻も早く立ち去りたいその状況で足を引きづっていたということは、容疑者から外れるための演技では無いだろうな。
だが、この人混みの中でそんな足を引きづる様な殺人犯を探し当てるのは殆ど不可能に近いだろう。
でもコナンくんがその突破口を見つけてくれた。
そう、あの札に包まれたGPS発信機だ。
スリの黒兵衛が一度も捕まっていないということは、掏られて黒い五円玉を懐に入れられるまで黒兵衛を特定出来ない。
だから、発信機入りの財布をわざと掏らせて携帯電話で位置を把握し、黒兵衛が人気のない場所に行くの見計らって撲殺したというわけだろう。
「目暮警部、犯人は黒兵衛に掏られた被害者で間違いない無いかと」
「だが、スリは複数犯も多いからな。スリ仲間同士の仲間割れという線も捨てきれんが」
「黒兵衛は単独犯だと思うよ!
自分で『スリがいるわよー!』って騒いでたし。
これってスリがよく使う手でしょ?スリがいるって聞くと、思わず自分の財布を確認しちゃうから。
スリはそうやって掏る相手の財布の場所を知るんだけど、相棒がいたならその騒ぐ役をその相棒にやらせるはず。
だから多分、ジョディ先生のお財布も……」
「え?……あぁ!?私の財布!無くなってる!!」
コナンくんの言葉で内ポケットを確認したジョディ。
どうやら、まんまと掏られていたようだ。