第25章 ミステリートレイン
「すっげ……」
思わずそう零れた私の視線の先には、これから乗車予定の列車、ベルツリー急行。
シューと蒸気を発する様は、噂通り見た目はまるでSLそのもの。
しかし中身は最新鋭のディーゼル機関車だという。
金かかってんなぁ。
「5号車に乗車予定のお客様!
走行準備が完了致しましたので、どうぞ中へお入りください」
車掌さんの言葉を合図に、私はこのミステリートレインへと乗車した。
中は完全個室になっていて、行き先が分からない列車の旅を誰にも邪魔されない優雅なひと時として味わえる仕様になっている。
ま、私は逆算してこの列車の存在に辿り着いたから目的地は名古屋だって知ってるんだけどね。
私の部屋は5号車のE室。
客車は全部で8つあり、8号車は一等車なっていてお値段が他より数段上がるんだとか。
来月行われる鈴木次郎吉相談役の宝石の展示もその一等車なので、恐らく快斗くんはそこに乗ってるんだろう。
ちなみに、その後ろには貨物車があるそうだ。
ウッキウキで自分の部屋である5号車のE室の扉を開くと、そこには1人では有り余るほど大きなソファが備え付けてあり、豪華で広々とした空間が広がっていた。
大きな窓の外からはいい景色が眺められそうだ。
「こりゃ、快斗くんには足向けて寝らんねぇや……」
改めて、このベルツリー急行の凄さを実感した。
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しばらく部屋で待機していると、ポーッ!!と音とともに列車が走り出した。
このまま、終着駅である名古屋まではノンストップで進んでいくらしい。
鮮やかな緑の木々が通り過ぎていく様を眺めながら、私は本来の目的を忘れて優雅に紅茶を飲んでいる。
う〜ん、香りが素敵。
ブーブー
景色を楽しんでいると、突然電話が鳴った。
「はいはいです」
『さん!!!!!』
電話の相手は青柳だった。
あまりにも大きな声だったので、持っていた携帯を耳から離す。
「もう、何よ大きな声出して」
『今どこにいるんですか!!!!』
「……ありゃ、言ってなかったっけ?」
『何も聞いてませんよ!!!』
凄い剣幕で話す青柳。
あちゃー、やっちった。
今日の事で頭がいっぱいいっぱいで、部下たちに休むことを伝え忘れてた。