第22章 雨の日は
ポアロを出てから少し歩いていると、やはり雨が降ってきた。
小走りで車を停めているパーキングへと向かう。
車に乗って自宅までの道を走らせながら、フロントガラスを打ち付ける雨粒を眺める。
ワイパーによって次々に除けられるそれを見て、私はとある日を思い出した。
あの日も、こんな風に雨が降ってたんだっけー……
___3年前
私は今、ひと月ぶりに帰宅した。
今日は12月7日。
松田が亡くなってから丁度1ヶ月。
あの日から、私は家に帰れないでいた。
家に1人で居ると、あの時鳴った電話を思い出すから。
だから、ここ1ヶ月は1度も休まずにずっと仕事をしていた。
ひたすら書類を捌いて、自分の担当分が無くなれば他の人のまで手を回して。
それでも時間が空いてしまった時には語学の勉強をした。
挨拶程度ではあるが、少しだけ使える言語が増えた。
使える言語が増えたことにより私に回ってくる仕事も増えて、尚更仕事に没頭出来た。
こうやって何かをやっていないと、すぐ思い出してしまうんだ。
___『ありがとな』___
あの、ポケットに手を突っ込みながら微笑む松田の姿を。
…あの笑顔を奪ったのは私だ。
私が手伝いたいと思ってしまったから。
私が復讐したいと思ってしまったから。
私のせいだ。私が、松田を殺したんだーー……
こんな言葉が頭を埋めつくして、私をどうしようもないほどに蝕んでいった。
もう、何も考えたくない。
思い出したくない。忘れたい。
そんな思いでひたすらに仕事に没頭し続け、まともな休養も睡眠も取らない私は隈だらけの酷く窶れた顔になっていった。
そうして、いい加減家に帰って寝ろと上司から1週間の休暇を言い渡されたのだった。