第21章 ポアロ
「ゼロが生きててよかった。
それだけ言えれば、今日はもう満足」
そうして私は席を立った。
伝票を持ってレジへと向かう。
「お会計をお願いしてもいいですか?安室さん」
「……かしこまりました」
ピッピッとレジを打っていき、淡々と支払いを済ませる。
すると、レジカウンター越しにゼロが私のおでこに手を当てた。
「…おでこ、悪かった。
痛かったか?」
「大丈夫だよ。痛いの慣れてるし」
そして私は、おでこの手をとって一度ぎゅっと両手で握り締めた。
改めて実感したかったんだ。私の目の前で、ゼロが生きてるって。
「…うん。
ご馳走様でした」
「…ああ」
手を離してそう言うと、私は振り返ってドアを開けた。
カランカランと再びドアベルが鳴る。
外に出るとあたりは少し暗くなっていて、厚手の雲が広がっていた。
もうすぐ雨が降りそうだ。