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【名探偵コナン】sangría

第15章 奇術師



突然だが、私の初恋の話をしようと思う。



今から20年前、
父さんと母さんに連れられて、1度だけロンドンで行われた国際パーティーへ出席したことがあった。

キラキラなパーティードレスに身を包んで、キラキラな空間で沢山の大人たちがお話をしている。
父さんの娘だと知った人達が、私に挨拶をしてくれて、ジュースやお菓子をいっぱいくれた。
そんな人達に囲まれて、私も少し大人になった気分だった。



そんな時、1人の男が前座としてマジックを披露したのだ。
棒は綺麗な花に変わり、女の人が宙へ浮かび、トランプはハトになって飛んでいった。

舞台の上で輝く彼は、まるで魔法使いだった。



「ねぇ、父さん。あの人だれ?」

「ああ、彼は黒羽盗一くん。
まだ若いが、彼はこれから大きくなるぞ」

「…わたし、あの人に会いたい」



そう父さんに我儘を言って、ショーを終えた彼の元へ連れて行ってもらった。




「盗一くん、見事だったよ」

「これはこれはさん。光栄です」


そんな会話をする父さんの後ろに隠れて、私は彼をじっと見た。


「おや、そちらの可愛らしい方は?」

「ああ、私の娘でね。ほら、お前が彼に会いたいと言ったんだろう」


そう言って、私は父さんに背中を押されて前に出た。
彼は私の目線に合わせて屈んでくれる。


「…あ、あの……、」


モジモジして中々喋り出さない私を、彼は微笑みながら待ってくれた。


「…あの、あなたは、魔法使いですか?」


やっとの思いで出た言葉。
私はどうしても確認したかったんだ。
なぜあんなにも彼は煌びやかに輝いていたのかを。


すると彼は私の前に手を出すと、そこから1輪の赤い薔薇をポンッと出した。


「小さなプリンセス、残念ながら私は魔法使いではありません。
ただの奇術師、マジシャンですよ」


微笑みながら、彼は私にそう伝える。
そしてその薔薇を私に渡しながら、耳元に顔を近づけてこう囁いた。


「そして怪盗だ。いつか、あなたのハートを盗むかもしれない、ね」



こうして彼は私の前から去っていったんだ。

見事に、私のハートを盗んで。

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