第14章 魔法の呪文
直接は言われなかったが、これは口外法度の機密情報だろう。
捜査一課も知らないはずだ、死体の身元がFBI捜査官であるなんて。
我々日本の警察の許可無しにFBIが違法捜査を行っていると知れれば、それこそ国際問題になる。
だから彼女らは、傷心旅行なんて見え透いた嘘を付いて日本に滞在しているのだ。
正直、薄々分かってはいた。彼女らがただの旅行ではなく何か極秘で捜査するために来日していることくらい。
でも、気付かないフリをしていたんだ。
しかし、面と向かってFBI捜査官が殺されたと言われれば話は別。
ただの旅行でそんなことが起こるはずがない。
私は日本の警察官としてこのことを報告し、ジョディ達FBI捜査官を強制送還しなければならない。
それが、私の仕事なのだから。
私に伝えるとは、つまりはそういうこと。
それでも彼女は、死体の身元が赤井さんであることを私に打ち明けたのだ。
……本当にズルいな。
私が日本の警察官ではなく、1人の人間であることをを選んでしまうことを知っている。
たった数週間共に任務をこなしただけの私をここまで信用しているのか。
少しの嬉しさと同時に、このことの意味する残酷さを思い知った。
結局、世間話なんて欠片も出来ずに、私たちは別れた。
日が落ちきった暗い道を1人で歩く。
___似ているんだ。俺の知っている女に。
その横顔も、風になびく髪も、悲しげな瞳も___
赤井さんが私に言った言葉を思い出す。
あの時の彼の翠眼が、頭に残って離れなかった。