第12章 指輪とそして
帰りの車。
俺はさんを助手席に乗せて家まで送っていた。
「松田の件で、私は佐藤の心に大きな傷を負わせてしまった。
けど、高木くんが少しずつそれを癒してくれているんだって、今日分かった。
私も、高木くんに言われて思い出せたしね!
大切な仲間からもらった言葉を。
あの子なら、佐藤を安心して任せられるわ」
「高木さんいい人ですもんね」
そう言って、隣でさんが笑った。
今日のことでさんが少しでも吹っ切れたなら、俺は来た意味があったのかもしれない。
「…絶対に居なくならない、か……」
さんが窓の外を見ながら小さく呟いた。
「ねぇ青柳」
「なんすか?」
「あんたは約束出来る?私の前から絶対に居なくならないって」
そう言われて俺は、何て答えたらいいか分からなかった。
ここで無責任に「はい」と言っていいのか。
それは、もしものことがあった時、さらにさんを苦しめることになってしまうのではないか。
自分がさんにとってそれほどの存在になれているかも分からないのに、ただ俺は勇気が出なかったんだ。
「冗談だよ!真に受けすぎだっての!」
少しの沈黙の後、さんが笑ってそう言った。
「あ、でもウミヘビには気をつけなさいよ!もう助けてやらないんだから」
「それは俺も御免です」
そう言いながら2人で笑った。
その時思った。
俺は、この人の笑った顔が好きだって。
しばらくして、さんの家の近くに到着した。
「送ってくれてありがとう。じゃあ、また明日仕事でね」
「……待って下さい!!」
俺は、車から出ていこうとするさんの腕を掴んだ。
「俺、約束出来ます!!さんの前から絶対に居なくならないって!!だから…」
だから…
俺はこの先、何を言おうとしたのか。
きっと、今口に出してはいけないこと。
口を噤んだ俺を見て、さんはふっと笑って俺の頭を撫でた。
「ありがとう。嬉しい」
そう言って微笑むさんは、俺が今まで見てきた何よりも綺麗で、そして今すぐ消えてしまうんじゃないかと思うくらいに儚かった。