第1章 憧れが好きへ
そんな事を考え始めてから、季節は夏から冬へと変わった。話しかけようと心に決めてから…あれ以来しばらく彼を見かけていない。
どうしたんだろう、何かあったのかな。それともたまたま時間が被らないだけだろうか…
そんな事を考えていた時だった。
今にも雪が降り出しそうな空の中、まるでそこに溶け込むかのような綺麗な白髪の髪が目に入る。
「あ…いた…」
いつぶりだろうか…そこにはとても久々に見る彼がいた。
寒そうに鼻の頭を赤くしながらズボンのポケットへと手を入れ、駅前の柱に寄りかかっている。
そんな彼は相変わらず、周りの視線を嫌というほど集めている。当の本人は全くと言っていいほど気にしていなさそうだが…
10分ほどだろうか、思わず彼をじっと見つめてから気がつく。
そうだ、お礼!お礼言わないとっ!!
私は寒そうな彼を見て、近くの自動販売機でホットのブラックコーヒーを買うとそれを持って彼へと近づこうとした…その時だった。
「おせーよ、リン」
彼が寄りかかっていた柱からスッと身体を離しその先を見つめる。
そこには……
「ごめんごめん!コンビニ寄ってたら遅くなっちゃった!結構待った?ごめんね…悟」
目の前にはあの日見た女の子。彼女は「えへへっ」と可愛らしく笑い彼を見上げる。
「別に、そんな待ってねェ」
彼は目の前で足を止めた彼女を見下ろすと、走ってきた彼女の乱れた横髪を慣れた手つきで耳へとかけた。
嘘だ…鼻先が真っ赤になるほど待っていたじゃないか。
今にも雪が降り出しそうな空を見上げ、何分も前からずっと待っていたじゃないか。
「あ!これ買ってきたの!あんまんとココアの甘々セット!はい、冷める前にどーぞ!」
彼女は持っていたビニール袋を持ち上げ彼に手渡すと、彼はそれを見てフッと優しく微笑んだ。
「さんきゅ」
彼女の頭にぽんぽんっと手を置き、優しい声を出す。
そして、瞳を細めありったけ優しく微笑むその姿を見て思った…
あぁ、彼は彼女が好きなんだ。
好きで好きで、どうしようもないほどに……
彼女に恋をしているんだ……
自分が持っていたブラックコーヒーを見つめ思う。きっと彼は、私の事など覚えてもいないだろう……と。