第6章 好機逸すべからず
車は海沿いを走り、しばらくして熱海の温泉街に入った。
観光地とは言えど、もう殆どの店が閉店しているようで明かりは多くない。そんな中、煌々と電気を灯していて一際目立つ店を発見。
道路の脇に車を停めて中の様子を伺うに、賑やかそうな飲食店のようだ。
「腹は減ってないか?」
「あー…若干?でもコンビニで買ったのまだあるし…」
「だが俺は腹が減った」
「じゃあ行きましょう!」
赤井さんがお腹空いてるんなら満腹だろうが喜んでお供しましょう。
車を駐車場に入れて、下り、そーっと店の扉を開いてみる。
「いらっしゃいませ!」
「あの…まだ大丈夫ですか?二人なんですけど」
「大歓迎っすよーどうぞー!」
明るい雰囲気の店内。店員は皆20〜30代くらいな外見の男性。オープンキッチンの脇のカウンター席には、常連と思しきこれまた同世代の客達が数人。そのすぐ後ろにあるテーブル席に私達は案内された。
「今日はお二人で観光っすか?」
「まあ、そんなところだ」
「花火もご覧になりました?」(熱海でしょっちゅう花火大会が行われているのはこの世界でも同じなのかも)
「花火?…いや、俺達はたった今来た所なんだ」
「今っすか!?いや…失礼しました!…とりあえず、何飲まれますか?」
赤井さんが店員の男の子と会話しているのをぼんやりと眺めていたら…突然飲み物のことを聞かれ、ハッとする。
「…えーっと……どうします?赤井さん?」
「酒のことか?君は飲めばいい」
「だったら赤井さんも…って車でしたね…」
「お泊まりはこの近くのホテルっすか?車ならウチに置いてってもらって大丈夫っすよー!」
「生憎宿は取っていないんだ」
「今夜は朝までドライブですもんねー」
「マジっすか…すげーっすね…お兄さん達東京の人でしょ?」
「…そうだが…どうするさん?もしこの時間からでも泊まれる所があるなら泊まるか?…エプロンの君、何処かこの近くに宿はあるか?」
「え…」
「そりゃあるにはありますよ?ウチのお客さんが経営してる割と近くのホテルとか…聞いてみます?女の子ウケもいい小綺麗なトコっすよ」
「ああ、頼む。部屋が空いていれば、ビールを2つもらおうか」
「ちょっとお待ちくださいねー!」と店員はカウンターの内側へ引っ込んでいく。