第18章 太陽を想う
宵闇に染まり行く花街を一人歩く
腕を組んで中睦まじく歩く客と嬢を横目に様々な置屋の見世を覗く
どこの店もまだ女の子は並んでいない、まだ少し早かったみたい
少し進んでいけばあの仏頂面と彼女がぶつかった辺りに差し掛かる
微かに三味線の音が聞こえる。まるで此処だけ時が止まったみたいに見える
ジッとその場を眺めていれば一粒、また一粒と雨が降ってきた
「・・・・・あんな事したから嫌われたのかな?」
知識の神と言われてるのにこんな時どうすればいいか判らないだなんて滑稽だ
素直に「嫉妬した」と「好きだ」と言ってれば何か変わったのかな?
それすら曖昧だ。
「チョイチョイ、お兄ィさん。濡れちゃうよ、雨宿りして行かない?」
思考の渦の中にいれば後ろから声がかかる。どうやら考え事をしながら結構な距離を歩いていたみたいだ、服の裾が濡れている
振り向いてそちらに向かえば見慣れた客引き野干の姿が見える
どうやら僕だという事に気付いたら素早く屋号入りの傘を差しだしてくるのでありがたく受け取った
「ドウモ白澤の旦那。今日おご予約ありがとうごゼェます。」
そう言いながら寝っ転がっていた体を起こし大きなあくびを一つする
「久方ぶりですねェ…随分とお早いおこしですが青田買いですカィ?」
そう言ってキセルで見世を示す
さっきから聞こえていた音色は此処から聞こえていたみたいだ。手習いの子たちが一所懸命に歌を奏でている
と思っていれば音が止む…どうやら今し方終わったようだ
新しい子に興味無くはないので檎の横に座ってから雨垂れの向こうに目をやる
石榴ちゃんが、いた。
傘を手放して慌てて駆け寄るけれど一瞬の間に彼女が居なくなってしまった
「なんでぇ、そんなにイイ子が居tぐえ!」
のんべんだらりと話すその襟元を掴んで揺すぶる
「今、石榴ちゃんが居た様に見えたんだけど!今夜の予約変えてもらえない!!」
「おえええ、ちょ、おちついて!それは妲己様に聞いてみないと判りませんよ、って」
その言葉に両手を離して急ぎ店の暖簾をくぐる
他の男の下にいるだなんて、そう思ったらもう止まらなかった。