第9章 宿敵との出会い
あの後白澤をベッドに転がしてから何時もの様に男装してここまでやってきた。細かい事は分かんないけど、とりあえず薬渡しておけばどうとでもなるでしょ
適当に歩いていた獄卒さんを捕まえて案内してもらってるけど流石は閻魔大王の裁判所だな、広い。だなんて思ってるけど営業スマイルで隠しておく
荘厳な廊下を進めば一つの部屋の前で
「此方が鬼灯様の執務室になります。」
「わざわざご案内ありがとうございます。」
そう言葉を交わせば足早に仕事に戻っていってしまった。
重厚な扉に手をかければ、出かける時に言われた言葉を思い出す。「アイツは鬼だ、何をされるか判らないから警戒するように。それと金丹の金額は釣り上げて請求しといて!」とグロッキーに伝えられた言葉を反芻しながら扉を押す
「さて、行きますか。」
「失礼します。鬼灯様はいらっしゃいますでしょうか?」
ゆっくりと入った部屋の中には黒髪に一つ角の鬼人が何やら書類を纏めているだけで、どうにもガランとした空間だった。
アタシの出した声に顔をあげるその人は、何処となく『彼』に似ていた。
「ああ、ご苦労様です。済みません、今手が離せないのでこちらまで来て頂けますか?」
サラサラと筆を動かす姿は「デキル男」そのままで、でも、何か物足りなかった。謎の違和感を感じながら側に近づき薬を机の上に置く
「お代の方は・・・5千元でいいです。」
「おや、今日はボッタくらないんですね。」
意外そうな顔をして目の前の人物は懐から封筒を出し差し出してくる。同時に薬も受け取った。これでお使いは終了だ。
「…そうするように言われましたけど、何かそんな気分になれませんので。」
なんだかモヤモヤする。ジッと相手を見つめる。何か感じる事があったのか目の前の相手もアタシを見つめ返してくる
「この薬を作ったのは?」
今渡したばかりの薬を繁々と見つめながらその人は問う
「へ?ああ、ほとんどは白澤様が作りましたが材料集めは僕が行いました。」
そう言えば初めてその無表情を緩めて
「…アレには勿体ないくらいですね、称賛に値しますよ。良い出来です。」
と言って書類を書く手を止めた。座ったままで見上げる瞳がアタシを見据える
「ですが女の貴方が男装し、自己防衛してまで奴のもとで教わる事はないと思いますよ。」