第3章 春 風 と 合 宿(♡)
4月になった、とある平日のこと。
悠里センパイはクロさんと同じ大学へ、俺は無事に進級して2年生になった。音駒が全国に行ったことを聞きつけてか、まだ春休みのうちに経験者から見学希望がチラホラと来る。
そわそわと浮き足立つような、新しい学校指定ジャージに身を包んだ新1年生たち。俺が1年の頃はどんなだったかな、と部活終わりの自主練中、思いを馳せる。
そろそろ帰ろうかと思ったその時、ポコポコと着信音。
「あっ、悠里センパイだ」
通知を開けば、可愛いオツカレサマのスタンプと、部活終わりに会えないかとメッセージ。悠里のためならどこにでも行きますとひとり宣言し、OKのスタンプを送る。
あの日──悠里が俺の家にお泊まりした日──以来2週間ほど、悠里とはまともにデートの時間を作れていない。会えても、部活終わりちょっととかで、じわじわとストレスが溜まっていた。
またポコポコと通知音が鳴り、高校まであと10分ぐらいとメッセージが見える。
「研磨さん研磨さんっ」
「なに」
「悠里センパイ、寄ってくれるみたいスよ!」
「そう、じゃあクロもいるかもね」
「?」
今日入学式って聞いてないの、と言われ、そう言えばそうだったかもと思い返す。おれは会うとメンドクサイからいい、と研磨さんはすごく嫌そうな顔だった。
まぁでも、可愛い悠里に会えるならなんでもいいや、と部室までの足取りも軽く、着替えの最中も鼻歌が止まらない。汗臭かったら嫌かな、ちょっといつもより多めにスプレーしとこ。
「灰羽くん、めっちゃ制汗剤かけてるね」
「デキる男のタシナミ、ってやつ!」
「なんだなんだ、デートか?」
「ソンナトコ!」
一緒に着替えをする犬岡と芝山も、一緒になってソワソワ。そしてちょうど着替えが終わった頃、校門に着いたよと連絡が入る。
お先ですと部室の面々に声をかけ、足早に下駄箱へ向かう。外用のシューズに履き替え、靴紐もろくに結ばずに駆け出す。この前会ったのは3月の終わりだから、かれこれ1週間は顔も見ていない。