第6章 夏 休 み 合 宿 前 半 戦(♡)
三つ巴、どころじゃないかもしれない。
腕の中に閉じ込めた、愛しい人。その感触と香りを思う存分堪能する。モゴモゴと喋り、何とか脱出を試みようとする姿は、捕らえられた小動物のよう。
スン、と首筋に鼻を寄せたその時、視界の端に映る、オレンジ色。顔を真っ赤にしながらこちらを覗くその姿に、かすかに笑う。それから、口の前に指を持ってきて、静かにしててねとジェスチャー。
飛び跳ねたその烏は、慌てて体育館の方へと走り去っていく。再び人の気配が無くなったのを確認して、どこかの猫が付けた独占欲の印に口付けた。
つん、と上書きしたそこをつつく。
「じゃあ、俺はこれで
あと、腹ペコの烏にも気を付けてね」
すっかり目眩のなくなった柏木さんを置いて、俺は体育館へと向かう。だがその途中、わざとぐるりと迂回して、とある人を探す。体育館の横、水道でバシャバシャと顔を洗う小さな背中。
「見付けた、日向」
「ハイッ!イイエッ!」
バッと顔を上げ、水を飛び散らせながら、日向はハッと俺を見た。それから、次第に赤くなる顔。
「さっきの、見てたでしょ
覗きなんて悪趣味なことするね」
「お、おお俺は!別に覗きじゃなくて!」
「知ってる、たまたまでしょ」
ぶんぶんぶんと顔を縦に何度も振る日向。まぁ、こいつには別に柏木さんを狙おうって気はないだろうしな。
「さっきの、内緒にできる?」
「ッ、し、します...!」
良い子だね、と笑って、俺は体育館へ足を踏み入れる。
「赤葦さん、えっちだ.........!」
そんな日向の呟きが、夏の蝉時雨へと溶けて言ったことを、俺は知らないけれど。
第6章 終