第17章 幸せな音が溢れる世界で
杏寿郎さんは、そんな私の行動に
「桑島殿に、君との関係を無断で伝えた事を咎められると思っていたが…俺の杞憂だったようだ」
安心したような声色でそう言うと、私の頭をその腕の中に優しく閉じ込め
「俺も、君のことを世界で1番愛している」
そう言った。
その直後
ゴロゴロゴロ…ドカーンッ!
遠くに聞こえていた筈の雷鳴が、やけに近くで聞こえた気がした。
じぃちゃん
やっぱり会いに来てくれたんでしょう?
ありがとう
私必ず
杏寿郎さんと
幸せになるからね
心の中で呟いたその言葉はきっと、雷雲の上にいるじぃちゃんまで届いているに違いない。
杏寿郎さんと私は、互いの愛を確かめ合うようにしばらく抱き合っていたが
"煉獄っ!鈴音!てめぇら主役のくせに、いつまでほっつき歩いていやがんだ!さっさと戻ってきやがれ!"
天元さんの大声が、大広間の方から聞こえてきた。
「…宇髄の奴、随分と酔っているようだな」
「……そうですね。でも私、天元さんがあんな風になってるの、初めて見ました。きっと、楽しくて楽しくてしょうがないんでしょうね」
ゆっくりと杏寿郎さんの背に回していた腕を離すと、私の背に回っていた杏寿郎さんの腕も離れていく。
それから顔を上げると、私の事を優しく見下ろす隻眼と目が合った。
「そうかも知れないな。さて、俺はそろそろ広間へ戻るとしよう。鈴音はまだここにいるか?」
「…私も一緒に戻ります」
私がそう答えると、杏寿郎さんは両眉の端を下げ
「無理をする必要はない。鈴音は元々、あぁいった騒がしい場所は苦手だろう?」
心配気な表情を浮かべ、そう尋ねてきた。
私はその問い対し、軽く首を左右に振り
「……いいえ。今はもう…平気です」
そう答えた。
けれども杏寿郎さんは
「本当か?気を遣う必要はない。鈴音は疲れてしまったようで別室で休んでいると伝えれば、皆納得してくれる」
私のことが酷く心配なようで、私の両肩に手を置き、顔を覗き込んできた。
私はそんな杏寿郎さんの目をじっと見つめ
「大丈夫です。だってあの場所は……幸せな音で溢れてるんですもん」
にこりと微笑みかけた。