第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
誰も何も言わない時間が続き、これで話は終わりだろうと思ったその時
「宇髄。てめェは結局これからどうすんだァ?まさかこれだけ偉そうに色々言っておいて"引退する"なんて、馬鹿なこと言ったりしねェよなァ?」
天元さんの隣に立っていた風柱様が、天元さんをジッと睨むようにしながらそう尋ねた。
……雛鶴さんとした約束だもん…何を言われようと、天元さんがその約束を破るはずがない
私はそんなことを考えながら、天元さんが正式に引退宣言をするのを待った。
けれども、天元さんの口から紡がれたのは
「俺は柱を続ける」
私が待っていた言葉とは正反対の言葉だった。
"どうして?"
そう聞きたかった筈なのに
「…っ!?!?」
驚きのあまり私の口からはなんの言葉も出て来てくれなかった。けれども
「奥方達との約束はいいのか?上弦を倒した暁には、隊士を引退すると約束していたのだろう?」
私が聞きたかった質問を、杏寿郎さんが天元さんへと投げかけたくれた。
「…っそうですよ!3人とも…あんなに喜んでたのに…どうして!?」
声を荒げそう尋ねた私に
「落ち着くんだ鈴音」
杏寿郎さんが諌めるように声を掛けてきた。
「…っ…お館様や…柱の方々の前で…失礼いたしました。…っ…でも、私はどうしても納得がいきません!天元さん…約束したんですよね?そう言ってたじゃないですか…」
恋柱様は、半ば興奮気味に天元さんに訴える私を落ち着かせようとしてくれているのか、優しい手つきで背中を撫でてくれていた。
天元さんはそんな私の元にまっすぐと歩み寄ってくると、私の前で立ち止まった。縁側に腰掛けている私と、庭に立っている天元さん。いつもよりも僅かに開いた距離に、私はとてつもない不安感を覚える。
けれども
「秘薬を手に入れた後、あいつらと話し合って決めた。俺たちが"望んで"そうすると決めたんだ。だからそんな顔、するんじゃねぇよ」
その不安を拭ってくれるかのように、天元さんが腰を折り、私にグッと顔を寄せながらそう言った。