第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
終始お館様を背後から支えていた奥方様は、お館様の隣にスッと美しい所作で移動すると
「ここからは、私の口からお話させていただきます」
背筋をピンと伸ばし、見とれてしまうほどの綺麗な立ち姿をしながら語りだした。
奥方様…あまね様の口から語られたのは
”痣”
の話だった。
痣の出現に成功した者は、通常では出しえない力を出し鬼と戦うことが出来る。けれどもそれには代償があり、痣が出てしまった者は”25歳”で命を落としてしまう…と言うことだった。
お館様の言う通り、私も明日死んでも構わないと思いながら生きてきた。もちろん生き残ることが出来たらそれに越したことはないが、命惜しさに戦いをやめることなど考えたこともなかった。
でも今は違う。
生きて、これからの時を、大好きな人と、大切な人と平和に過ごしたい。大切な人達の元へ、その人達にとって大切な人を、返してあげたい。25歳でその命が尽きてしまうなんて、そんな未来は想像したくない。
天元さん、雛鶴さん、まきをさん、須磨さん、そして杏寿郎さんに出会って、そう思えるようになった。
そう思えるようになったことを、私は誇りに思う。
”命を惜しく思うとは情けない”
と、後ろ指さされるのならそれで構わない。
「先ほど宇髄様がおっしゃって下さったように、煉獄様は怪我で内臓を痛めてらっしゃいます。人よりも心拍数が上がりやすいその状態で身体を酷使し、秘薬を使うことがあれば、痣が出現してしまう可能性は…誰よりも高い状態の筈です」
「…っ!」
あまね様のその言葉に、一瞬息ができなくなった。
……もし杏寿郎さんに痣が出てしまったら……あと4年くらいしか…一緒にいられない…そういう事…?
”そんなの嫌”
私は、はっきりとそう思った。
けれども杏寿郎さんは違ったようで”それでも俺は”と何かを言おうとしていた。けれども
「杏寿郎」
先ほどと同じように、お館様がその言葉を遮った。
私が杏寿郎さんの顔を恐る恐る見てみると、杏寿郎さんは”…はい”と静かに返事をしながらお館様の顔をジッと見ていた。