第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「まさか自分がこのような趣向を持ち合わせていたとは信じられない。……だが」
杏寿郎さんはそう言うと、私の右耳に再びぐっと顔を寄せ
「相手が君ならば、そんな自分も悪いとは思わない」
「…っ…ん」
先程噛り付いた場所に、今度は優しい口付けを落とした。そして
「ほら。俺は君が話をしてくれるまでこうするのをやめるつもりはない。だがあまりのんびりしていると、稽古にくる隊士に見られてしまうかもしれないぞ?まぁ俺としては、君が俺のものだと周知させるいい機会になる故それでもかまわないがな」
ちゅっちゅっと軽い音を立て、杏寿郎さんは何度も何度も私の耳に口付けを落とす。
「…っ…そんな…!」
私が選べる選択肢は2つ。
ひとつは杏寿郎さんに、この邸に来ていたのが女性隠であるかどうか尋ねること(けれどもこれを聞いてしまえば、察しのいい杏寿郎さんには私がどうしてこの質問をしたのかがきっとわかってしまう)。
もうひとつは、台所で恋人に迫られている姿を稽古にきた隊士に見られ、死ぬほど恥ずかしい思いをさせられること(そんなの想像しただけで消えてなくなりたくなる)。
…どっちも…嫌だけど…こんな姿を人に見られる方がより嫌…!
私は恐る恐る下げていた顔を上げ
「……」
”早くどちらか選びなさい”
と言わんばかりに私を見ている杏寿郎さんの右目と視線を合わせた。
「……あの…」
「なんだ?」
「………邸に来ていた人は……女性…ですか…?」
口から出てくる言葉が尻すぼみになるにつれ、汗をかいてしまいそうな程の熱が顔に集まった。
私の投げかけた質問の内容を理解した杏寿郎さんは、満足げにニコリとほほ笑むと
「安心すると良い。ここに来ていたのは男性の隠だ」
私の頬を愛おし気に優しく撫でながらそう言った。
「…そう…ですか…」
もごもごと口ごもりながらそう答えた私に対し
「俺は鈴音が不安になるようなことは決してしない」
杏寿郎さんは、はっきりとそう言った。