第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
けれども、私の頬に当たる杏寿郎さんの毛量が増えたかと思うと
「…っひゃあっ!」
杏寿郎さんはハムッと、私の耳の縁を甘噛みした。突然のことに、私の手からスルリと御茶碗がこぼれ落ち
「おっと危ない」
全く慌てた様子のない杏寿郎さんが、見事にそれをキャッチした。
「危うく割れてしまうところだったな」
こともなげにそう言った杏寿郎さんに
「…っ杏寿郎さんが悪いんでしょう!?な…なんで…人が洗い物をしている時に耳を噛むんです!?邪魔するならあっち行ってください!」
私は手に持っていたタワシを流し台に放り、隣に準備しておいた手拭いで適当に手を拭くと、一言文句を言ってやろうと杏寿郎さんの方に身体ごと振り返った。
この選択が間違いだった。
「…っやだ…顔…近づけてこないで…!」
「一つ屋根の下で暮らす恋人に顔を近づけてくるなとは…随分な物言いだ」
振り返り、互いの顔が向き合ったことをいいことに(私の馬鹿)杏寿郎さんは、グッと互いの鼻がぶつかってしまいそうなほどの距離まで顔を寄せて来た。
「…っ…!」
杏寿郎さんのその行動に、私の胸はどうしようもなく高鳴り、その熱い視線に耐えるようにムッと口を固く閉じた。
すると杏寿郎さんは、私が何も言わないのをいいことに、これ以上そうならないと言うほどまで身を寄せて来ると
「それで?鈴音は何故あのような顔をしていたんだ?」
私を誘うような熱く甘い声を出し、そう尋ねて来た。その時点で
…あ…杏寿郎さん…私があんな顔した理由わかってるんだ。わかってて…言わせようとしてるんだ…
私の嫉妬心など、杏寿郎さんにはお見通しである事に気付かされる。私はキッと杏寿郎さんを睨み
「…っ言わない!絶対言わない!」
恥ずかしさを隠すように怒った口調でそう言った。
「残念だが…そんな顔で怒られてもただ可愛いだけだ」
杏寿郎さんは艶っぽい笑顔を浮かべながらそう言うと、ガシッと私の両頬を大きな手のひらで包み込み
ちぅぅぅぅぅ
「…っんーーー!」
私の身体が後ろに反ってしまうほどの勢いで口付けて来た。