第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
一旦落ち着こうと視線を下げ、天元さんが何を言わんとしているのかをもう一度考えてみるも、これだと言う答えがやはりどうしても見つからない。
「……」
そんな私の様子に
「ったく。呆れちまう程鈍間だ」
天元さんは言葉の通り、心底呆れた声でそう言った。
…やっぱり……許してもらえないのかな…
私は思わず一歩後退りをしてしまう。天元さんはそんな私に視線を合わせるわせるように身を屈め、珍しく化粧を施していない顔をズイッと私に寄せてきた。
至近距離で天元さんの顔を見て気がついたが、左目の上にはあの時鎌の鬼に斬られた傷跡がまだうっすらと残っていた。
…私…本当に自分のことばっかりで…天元さんの怪我とか…他の人のことなんて…全然気にしてなかった
自分のことしか考えられなかったあの時の自分が、酷く情けなく思えた。そして、先程から変わらず厳しい天元さんの表情に、何を言われるのかとドキドキと心臓がものすごい音を立てる。
「馬鹿なお前は、家に帰ってきた時、何て言うかすらも忘れちまったのか?」
「………え?」
一瞬何を言われているのか理解ができなかった。
"家に帰ってきた時に何と言うか"
頭の中で、天元さんに言われた事を反芻し、導き出した答えは一つ。
ブワリと目の奥の方から一気に涙がせりあがり、先程堪えたはずの涙は結局次々とこぼれ落ちて来てしまう。
「…っ…私が…それを……言って…っ…いいん…ですか…?」
天元さんは黙っまましばらく私をじっと見つめた後
「可愛い嫁たちの頼みだ。聞かねぇわけにはいかねぇ」
そう言うと、フッと厳しい表情から笑顔になった。
「あいつらが待ってるぜ…馬鹿鈴音」
「…っ…!」
一瞬聞き間違いかと思ったが、先程天元さんは確かに私のことを荒山ではなく鈴音と呼んでくれた。それがまるで、天元さんが私と言う存在を改めて受け入れてくれたような…そんな気がした。
「…ただいま…戻りました…」
呟くように小さな声でそう言った私に
「そんなんじゃ地味すぎて奥にいるあいつらまで届かねぇよ。もっと派手に腹から声出せ!」
天元さんはそう言った。