第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
蕎麦の入った椀が空になり
「…ご馳走様でした」
私が言い終わるや否や
「さて。俺に何か言うべきことがないだろうか?」
私よりもかなり前にお蕎麦を食べ終えていた杏寿郎さんが、腕を組み、痛いと思ってしまうほどの鋭い視線を私に寄越しながらそう尋ねて来た。
…そんなのありすぎてわかんないよ…
そんなことを考えながら私が選んだ言葉が
「…どうか他の女性とお幸せに」
自分でも呆れ返るほど愛想も、可愛げもない言葉だった。
「……」
杏寿郎さんは、そんな私の答えを眉ひとつ動かさず黙って聞いている。そんな様子が余計に私を動揺させた。
「…っ私!本当は…きょう…っ…煉獄さんのこと最初から好きなんかじゃありませんでした!天元さんに連れて行って欲しくて…好きなふりをしていただけです!煉獄さんが私を好きって言うから…都合よく…利用させてもらっただけなんで…」
そんなのは嘘だ。本当は杏寿郎さんのことが心底好きだ。許されるのであれば、今すぐにでもその広くて温かい胸に縋りつき
会いたかった
耳がダメになっちゃってもそばにいさせて
私を必要として
いらないなんて言わないで
思っていることを全てぶつけてしまいたかった。
けれどもそんなことを周りが許してくれないことも、私自身も許せないことも十分わかっている。
私は杏寿郎さんの方を見ることができず、ギュッと手を握り締め、ただただ空になったお椀を見つめていた。
「…はぁ」
深く大きなため息が杏寿郎さんの方から聞こえ、私の肩がピクっと大きく上下する。それから今にも震えてしまいそうになる身体と、溢れ出そうになる涙を抑えようと、更に強く手を握り締めた。
「仕方ない」
杏寿郎さんがそう言いながら何やらゴソゴソとしているようだったが、顔を見られるわけにはいかないと私は下を向き続けた。
次の瞬間
「…ひゃ…っ…んぅ!?」
杏寿郎さんが急激に私との距離を詰め、グッと顎を掴み、強引に私の唇を奪ってきた。驚きのあまり反応できないでいると、あっという間にスルリと熱い舌が私の口内に侵入してくる。