第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
「…ごめん…なさい…」
その一言だけをなんとか絞り出し、踵を返し、来た道を戻ろうと身体の向きを変える。すると、背後からクスクスと笑い声が聞こえ
パキパキパキ
心が以前のように冷たく硬く凍りついた気がした。
「さっさと帰れ」
吐き捨てるように言われたその言葉から逃げるように
シィィィィイ
雷の呼吸を使いこの地獄のような場所を去ろうとしたその時。
「…っ!?」
目の端に見覚えのある人の姿が映り込んだ。
っ胡蝶様の継子の…栗花落さん…!
嫌なところを見られてしまったと思い、顔を隠すよう真下へと顔を向ける。けれども
…そうだ。栗花落さんは他人に興味がなかったんだっけ…
そのことを思い出し、今見られてしまったこの出来事も、なんとも思わず、すぐに忘れてしまうだろうと結論づけた。それでもそのまま栗花落さんから顔を背け、一度も足を止めることなく長屋へと走った。
長屋に着くとすぐ、隊服を脱ぎ元々自分が持っていた普段着に着替えた。それから風呂敷を取り出し、適当に目に入ったものからそこに詰めた。相変わらず荷物は少なくて、それが居場所のない自分を象徴しているようで虚しくなる。
……出来た
あっという間に荷物をまとめ終えた私は、筆を取り、書き殴るように"除隊届"を書いた。なんと書いていいか分からなくて、ゆっくり書いていると気持ちが揺らいでしまいそうで
"一身上の都合により除隊させていただきます"
それだけ書き、封筒へと閉まい、畳んだ隊服の上に置く。
次に、会うことは出来なくとも、せめて善逸、天元さん、雛鶴さんまきをさん須磨さん、それから杏寿郎さんに手紙をと思ったのに
…っ…だめだ…前…見えないし…手が…
涙で世界は歪み、手が激しく震え、書くことが出来ない。
…なんで私は…こんなんなんだろう…なんで私は…私なんだろう…
情けなくて悲しくて虚しくて、何も書けない白紙の便箋をぐしゃぐしゃと丸めた。
…っ…早く出ていかないと…!
何をそんなに焦っているのかと自分でも思いはしたが、どうにもし難い焦燥感に駆られ、誰も居ない場所に行きたくて、私は筆も便箋もそのままに玄関へと向かった。
草履を履こうと身を屈めた時
カチャッ
私の腰に刺してある日輪刀が段差に当たり音を立てた。