第2章 脱兎の如く
じいちゃんと善逸と過ごしたあの家を出てから半年程が経とうとしていた。
その間幸運にも大きな怪我もなく任務をこなしてこれたのは、ひとえにじいちゃんが仕込んでくれたこの雷の呼吸と、測らずしも得ることになったこの"聴ける"耳のお陰だ。
けれども体質もあるのか、相変わらず私の筋力はあまり付いてくれず、どうしても速さ、そして聴くのを頼りに相手の隙をついて頸を切る戦法に頼りがちになってしまう。
今までは…自分ひとりで対処できる鬼としか遭遇してこなかったけど、階級が上がるにつれて任務の難易度も上がって来るはず。そうすれば、今までのように速さと戦略だけじゃ対処できなくなって来るかもしれない。なにか良い方法を…編み出さないと。
先日、和にもうすぐ階級があがるかもと言うようなことを言われた覚えがある。そうすればわたしの階級は"庚"に上がる。まだまだ下から数えた方が早いが、きっと今までより強い鬼と戦うことは避けられない。
私はとても悩んでいた。
——————————————
「…っそっちに行ったぞ!速く追え!」
この日の任務は森の中での合同任務だった。一体の鬼が4体に分裂し、ちょこまかと隊士達をおちょくるようにして逃げ回りながら、徐々にこちらの体力を削る。4体に分裂したその鬼は、小さく力もそれほど強くなかったものの、的確にアキレス腱や足首ばかりを攻撃して来るため、段々とまともに動ける隊士が減らされていった。
6人もいたはずの動ける隊士は、いつの間にか私と
「っ…救援はまだなのか!?」
私よりも上の階級(庚と言っていた気がする)だと言う、やけにツヤツヤかつサラサラの髪を所持する村田さんという隊士の2人になってしまった。けれども私にとっては"この人と2人"という状況がむしろ好都合だった。
この人は、話のわかる人だ。さっきのあの隊長さんとは違う。
先程足首を切られ、負傷した者同士で応急処置をしているこの隊を率いている隊長は、
"俺の作戦に意見するな!"
と私を怒鳴りつけ、私の話に耳を傾けてくれる様子は全くなかった。なので、せっかく聴くことで得られた鬼の動きや攻撃の法則を伝えようとしても叶わず、結果あのざまだ。
やっぱり強さを誇示する男なんて嫌いだ
私がその思いに至ったのは当然の結果である。