第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「この子にちょっかいを出すのはやめてもらえないだろうか?」
あぁ…どうして…
「これ以上近づいてくるのであれば、あなたが俺たちにとって無くてはならない存在の刀鍛冶であろうと容赦はしない」
心の奥底にしまい込みたい願う気持ちをほじくり出されるようなことばかり起こるの?
ダメだとわかっているのに、私の両手は目の前にある炎を模した羽織を握りしめていた。
「なんだ貴様はぁぁ!どうして俺の邪魔をすんだぁぁ!?」
突然の炎柱様の登場に、工房内にいた刀鍛冶たちが"炎柱様だ"とざわつく声が聞こえてくる。そしてそれと相反する"なんなんだよあいつは"と、私に詰め寄って来ようとした男に対し呆れるような声も聞こえてくる。
私の視界は炎柱様の背中で埋め尽くされており、炎柱様のむこう側を確認することはできない。けれども気配から察するに、例の男が炎柱様から少し離れた位置で立ち止まったことが窺い知れた。
「どうして…どうして貴様は俺の邪魔をするんだぁぁ!?」
「どうして?荒山は明らかにあなたに怯えていた。彼女を脅かそうとする存在を、易々と近づけさせるわけがないだろう」
「脅かす!?俺が何をしたって言うんだ!?俺はただ…あのすこぶる美味いみたらし団子を買った店がどこにあるか聞きてぇだけだぁぁ!」
「「「…は?」」」
炎柱様、鉄穴森さん、そして私の声が綺麗に重なる。
「団子自身の味に食感、みたらし餡の塩梅…いままで食べてきたみたらし団子の中で1番美味かった…!」
炎柱様の背中からヒョコリと顔を出し、意味のわからないことを言っている刀鍛冶の顔を覗き見ると、そのすこぶる美味いみたらし団子の味でも思い出しているのか、斜め上の方を見つめぽやーんとしているように見えた。
…何…その理由…
確かに私は、ここにくる手土産として、度々お邪魔させてもらうお団子屋さんのお団子を持ってきた。あそこのみたらし団子は美味しい。味、食感、餡の塩梅が素晴らしいことには同意する。だからと言ってそんな必死に初対面の相手に詰め寄っていくその行動は全く理解できない。
「だそうだ。どうする?」
炎柱様は首だけをこちらに振り向かせ、私の様子を伺うようにそう尋ねてきた。