第1章 始まりの雷鳴
善逸と並んで廊下を歩き、その後ろをじいちゃんが付いてくる。玄関につき、草履を履いていると、私よりも早くそれを履き終えた善逸が玄関の戸をガラリと開けてくれた。
「ありがとう」
そう善逸にお礼を述べ、玄関の外に出た。すると、私の視界に入ってきたのは、
みんなで種を蒔いて野菜を収穫した畑
洗濯物を数えきれないほど干した物干竿
何度何度も木刀を打ち込んだ木
何回も引っ掛けられたじいちゃんお手製の罠
美味しい実がなる数えきれない程の桃の木
どれもみんな、ここでの思い出がたくさん詰まっている。
…寂しいな。
そんな気持ちをグッと心の奥底に沈め、
「それじゃあ…行ってきます」
笑顔浮かべ、善逸とじいちゃんの方へと振り返った。
「くれぐれも無理をするんじゃないぞ」
「わかってます」
「落ち着いたらすぐに手紙頂戴よ!」
「わかってる」
「鬼の中には血鬼術を使う異能の鬼もいる。お前の耳で良く聴いて判断するように」
「わかってます」
「変な男に捕まったらその日輪刀でぶった斬るんだからね」
「わかっ…るわけないでしょ!それ犯罪だから。私捕まっちゃうから。もう!2人とも、さっきからそんなことばっかり言って!私のことなんだと思ってるの!?」
そう言って怒り出す私に
「すまんつい心配で」
「ごめんねつい心配で」
じいちゃんと、善逸の声が綺麗に重なった。
「もう…しょうがない師範と弟弟子ですね」
そんな事を言いながら、私の心は自分のことを思い遣ってくれる2人の気持ちが堪らなく嬉しかった。
そんな2人とも、もう離れなくてはならない時間だ。上空で旋回しながら、和が私の出発を今か今かと待っている。
「それじゃあ…、行ってきます」
必ずまた、じいちゃんのところに戻ってこよう。
必ずまた、善逸と2人で桃を食べよう。
必ずまた、3人で食卓を囲もう。
大丈夫
私は出来る。
「行ってこい」
「行ってらっしゃい」
再び重なる2人の声に、
「…ふふっ…」
笑いを堪えながら、
大好きな2人と
大好きな"私の家"に背を向け
鬼殺隊士荒山鈴音としての
第一歩を踏み出した。
✳︎第一章-完-✳︎