第8章 響かせろ、もっと遠くまで
炎柱様はその時の弟さんの顔を思い出しているのか、なんとも楽しげな表情をしていた。
「…っ…そういうのを…平気で他人に話すのはやめてください!」
私が半ば怒鳴るようにそう言うと、炎柱様は僅かにムッとした表情を見せ
「荒山。千寿郎は他人ではない。俺の大切な弟だ」
そう言った。
「…っわかってますよそんなの!そういう意味で言ったんじゃありませんから!炎柱様にとって弟さんがいかに大切な存在か…わかってるからあんなに必死になって上弦ノ参と戦ったんです!もう!炎柱様は本当に…話が通じない時が多すぎます!察しがいいのか悪いのか…全然わかりません!」
「そんなことはない!自分で言うのもおかしな話ではあるが、俺は人の感情の機微には敏感だ。だから荒山…」
炎柱様は一旦言葉を切り、私の目を、まるで奥深くまでのぞき込んでくるかのようにじっと見てきた。
「…っ…なんでしょう」
やめて。そんな目で…私のことを見ないで。
気持ちが…止められなくなっちゃう…。
そう思いながらも、私はその炎のように熱く、綺麗な目から視線を逸らせずにいた。そして
「君の俺に対する気持ちの変化も…わかっているつもりだ」
「…っ…」
そう言われてしまい、どうしていいかわからず、隊服のズボンをぎゅっと握りしめた。
”私の炎柱様に対する気持ちの変化”
それはつまり
”苦手と思っていた炎柱様に、好意を抱いてしまっている”
ということしか考えられない。
どうしてばれてしまったのか?
そんな馬鹿なことは思っていない。自分でも、自分の気持ちが態度に出てしまっていることに自覚があった。
以前は張り付けた外行きの笑顔を浮かべていたのに。確かにそれが出来たのに。炎柱様を好きだと思ってしまったあの時から、私はもう炎柱様の前でそれが出来ない。見つめられると、声を聴くと、触れられると、顔が、頬が熱くなり、いつもの自分でなくなってしまう。