Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第6章 記憶から消してもいいですか!:北
5コールは待って、けどそれ以上北先輩を待たせる訳にはいかないやろって頭の中の私が言うから、恐る恐る画面の左下、緑の電話のマークを押す。
「あ、片倉?」
『っ、ひゃい』
小さな機械越しの北先輩の声は、落ち着いたトーンで、少しだけいつもと違って聞こえて、声が上擦った。ただでさえとんでもない文面を大量に送り付けてるんやし、もう引かれてるやろなと半ばやけくそだ。
「さっきの、メッセージやけど…」
『あ、あはは、すみませんほんまに、
グルと間違えて本人に送っちゃうなんて、
どうしようもないぽんこつで…』
努めて明るく話しているつもり、けどきっと声は震えとる。こんなしょうもない形で、恋がぶっ飛んでしまうなら、ずっと隠しておけばよかったやんか。
「片倉、」
北先輩が名前を呼ぶ。北先輩の声を無視して、続けた。
『気持ち悪ぅって思いましたやろ、
明日も部活ありますし、せやから、北先輩』
記憶から、消してください。
目頭が、ツンと熱くなる。鼻をすすった音を、どうかマイクは拾ってませんように、北先輩には届いてないように。
たっぷり30秒、北先輩は黙っていた。それからさっきと変わらん声で、もう一度私の名前を呼ぶ。
「片倉、俺はな」
『はい…』
いっそ潔くフって欲しい。そしたら、吹っ切れて、頑張れる。ところが耳に飛び込んできた北先輩の声は、全く違う言葉を紡いではった。
「いつも真っ直ぐで、ひたむきで、
竹を割ったような片倉が好きやったで」
『はい………ぇ、え?き、北先輩?』
理解が追い付かない。頭がハテナでいっぱいになる。隠しようがないほどに動揺する私に、北先輩はくすりと笑って、爆弾を放ってくる。
「やからな、片倉の気持ち、教えてや
片倉がちゃあんと言うてくれたら、俺も答える」
そんなこと言われたら私、期待してしまうんやけどな。砂糖菓子みたいな、甘い誘惑。私がちゃんと言うたら、北先輩は私が欲しい答えくれるんですか。どぎまぎしながら聞けば、どうやろな、って、北先輩が小さな画面の向こうで優しく笑てはるのが聞こえた。