第83章 彼の仕事【二章】
暫く降谷さんの頭を撫で、抱きしめていたが、彼が上半身裸のままであること、怪我をしていることを思い出して、私はゆっくり離れた。
ぐっと自分の涙をぬぐって、それからパサっとベッドにあった布団を降谷さんの頭からかぶせた。
彼のことだから涙なんて私に見せたく無いだろう。
そう気遣ったつもりだったが、降谷さんは気にせず布団から顔だけを出した。
ーー涙は引いている。
むしろそんな形跡すらない。
…切り替えが早い。
「キスしてもいい?」
そんな降谷さんを見て私は無意識にそんなことを口していた。
「あっ、えと…この前スマホの記事で読んだんだけど…キスにはなんだっけ…なんとかのなんとかシン?全部忘れちゃった…なんか身体から出て、疲れやストレスを和らげるって……」
頭に布団をかけたままの降谷さんがじっと私を見て話を聞いてくれた。
「リラックスしたり…緊張とかもしなくて…それで…」
「うん。」
「…キス……してもいい?」
私は降谷さんの肩に手を置き、身を乗りだした。
ふにっと触れるだけのキス。
「…そんなんじゃ、オキシトシンは分泌されないかな。」
…やっぱり知ってた。博識だなぁ。
「…下手でごめん。」
「でも、横にいてくれるだけでリラックス効果はあるよ。」
なんて顔するんだろう。
私はまた悲しくなって涙が出てきて、頭にかかった布団を引っ張るともう一度降谷さんにキスをした。
「…っん………これから、忙しくなる?」
「…あぁ。」
降谷さんは私の腰に手を回し、あぐらの上に座らせた。
難しい顔してふぅっと息を吐いた。
「ごめん、今頭でずっと考え事してる。」
「うん、大丈夫。帰った方がいい?」
「……僕もすぐ行かなきゃいけない。もう少しだけ。」
…寝る暇はないんだね。
降谷さんは閉じ込めるように私を力強く抱きしめた。
「明日、シフト僕入ってなかったな…。」
「明後日からだったかな。」
「悪いが明日入れてもらえるか?」
「…?それは…全然いいけど…」
休みを欲しいと言われると思った。
むしろポアロに来るの…?
「僕は僕の正義を貫くよーー…。」
「ーーーあいつらの死を絶対に無駄にしない。」