第77章 お客様感謝デー
チンと、カップにスプーンが当たる音がする。
「ふふ。」
ミルクティーをくるくるとかき混ぜて、ゆっくり口にふくむ。
「ふふ。」
つい笑みがこぼれてしまう。
「ご機嫌ですね。」
「うん、お気に入りのカップで飲むお茶が美味しくって。仕事がはかどるの。」
「よかったです。」
降谷として送りたい。と言われたから、安室さんには白々しくそう言った。
あれから安室さんはまたちょこちょことシフトに出るようになって、いま少し平和なようだ。
「これなんですか?」
安室さんは私のパソコンの横に置かれているチラシを手に取った。
「あー、それは来週行われる近くの夏祭りのチラシです。ここの商店街の商会がキャンペーンをするみたいなので、マスターがうちも参加しようって。」
花火と浴衣を着た女の子が描かれたチラシ。
「へぇ、どんなキャンペーンなんですか?」
「浴衣で来店した人ドリンク100円引だって。」
「面白いですね。」
「お祭りは商店街全体で出店とかあるし、疲れた人が休みにたくさん来そう。」
「たしかに。全部のドリンクですか?」
「マスターはそのつもりみたいね。でも、お客さんきていろんなドリンク頼まれてもたいへんだし、お客さん待たせるかもだから、今試行錯誤中。そのためのメニューも今パソコンでデザイン考えてるところ。」
「さすが。」
パソコンでぽちぽちマウスを動かしながら、私はチラリと安室さんをみた。
「安室さん…浴衣もってます?」
「え?…まぁ、一応。」
「来週の土曜日、出勤…して欲しいなぁ。」
「…努力します。」
絶対似合う。
茶色っぽい浴衣も似合うだろうし、紺色も…いや、白も捨てがたい。
イケメンはなんでも似合いから憎いぜ。
「従業員も浴衣きるんですか?」
「マスターはノリノリでした。…あの人いつかメイド服まで着させそうな勢い。」
「…それはいいな。」
「え?」
「いえ、なんでもありません。」
にっこり笑う安室さんに私はもう一度、浴衣姿を重ねて妄想した。