第65章 日常と非日常
隣の部屋で総長らしいメイクを終え、服も着替えた。
時間もあまり無いだろうと、急いで準備をしてふたたび降谷さんがいる部屋に戻ると、降谷さんも昨日と同じ格好に着替えていた。
黒いパンツに黒いパーカー。キャップはまだ机の上だ。
私に気付くと手招きした。
「上の服だけ脱げるか?」
「えっと…サラシになっちゃいます。」
「本格的だな。」
「形から入らないとね。」
「そうか。脱げるか?」
「わかりました。」
胸を押さえつけるように巻いてあるサラシ。
肩はむき出しである。
「バレないように薄型の防弾チョッキだ。」
降谷さんは黒いベストのようなものを取り出し、私に着せてきた。
「じゅ、銃撃戦になるの…?」
こんなものか必要なくらいなのか、と驚いた。
たかだかボスの前出て行って話をしてると公安が乗り込んで、はい。逮捕。ってなるくらいだと思っていた。
「ボス以外の手下が何人来るかまでは把握できていない。」
「…そっか。」
降谷さんは私の体型に合わせるように腰回りのベルトの調節などをし始めた。
こんなもの、着たこともないから着方なんてわからないし、助かった。
「相手は武器の密輸組織だからな。海外の最新鋭の銃なども所持している可能性もある。日本の警察の銃なんて古い。」
「武器は良いものじゃなくて、使う人が重要だよ。」
「そうだな。…本当はこんなもの着せたくなかったんだが。」
「そう?ドラマみたい。かっこいいよ。」
へらへらっと笑っていると、降谷さんもふっと笑ってくれた。
そして、腰あたりの調整がおわると、防弾チョッキの胸元のチャックを少しだけおろした。
「?」
「今日は僕からのおまじないだ。」
そう言ってギリギリみえないあたりに唇を寄せ、ぺろりと舐めると吸い付いた。
「…っ。ふるっやさんっ」
「…『無茶せず,怪我なし、頑張って。』か…。めぐみ。」
「はいっ。」
降谷さんは胸元から顔を上げ、私の頬に手を添えた。
いつも以上に真剣だ。
こんな近くで見つめられて、私も視線を外すことはできなかった。
「無茶させない。怪我もさせない。絶対に僕が守る。」
「…はいっ。よろしくお願いしますっ。」