第62章 潜入
長髪の男に電話を渡された。
私を何故か悔しそうに睨んでいる。
自分だけで話をまとめたかったのだろう。
電話を左手でとり耳に当てた。
こちら側ならボスの声も安室さんに聞こえるはずだ。
「こんばんは。」
「噂以上の女性で驚いたよ。うちの若いもんがすまなかったね。」
「あら、貴方いい声ね。話ができそうだわ。」
「それは良かった。」
「…すこし訛ってるかしら。外国の方?」
「嫌いかい?」
「いいえ?今の私の男もハーフよ。メンバーにも外国人はいる。何も思わないわ。不快にさせたかしら。」
「まさか。」
声の感じは50代くらいだろうか、渋い声で、ダンディだ。
アジア系の訛りがあるようだった。
「こちらもビジネスでね。相手は選びたい。君みたいなひとがいるところは是非とも話をしたい。」
「相手を選びたいのはこちらもよ。お金が手に入るからって尻尾は振るつもりはないわ。」
「そうだろうね。」
「社会に見捨てられ、親に見捨てられ、そんな子達が私を慕って集まってくれている。私はあの子達を守らなければならないの。」
「…。」
「みすみす危険に晒すわけにはいかないわ。あんな、南の奴らと一緒にしないで。」
「うむ。君とはまた違った取引をしたくなった。お金だけじゃない。」
「……。」
「まだ信用できないかね?」
「……お金だけとはいえ、南の大きなグループ二つをまとめた貴方とも、話をしてみたいわ。」
「いいだろう。日付を変えて私と会わないかい?」
「さすがにボディーガードはつけるわよ?」
「もちろん。君は女性だからね。」
「木刀も持っていっていいかしら。」
「ふふっ、もちろん。君は面白いな。」
「貴方のために口紅の色を変えていくわ。」
「楽しみにしておくよ。日付は後ほど。」
「えぇ。」
電話を切り、長髪の男に返した。
男は携帯を見て、「明日の夜9時、場所はここ。同じ場所で。」と私に伝えた。
『それでかまいません。』
安室さんに許可をもらい、私は男に向かって頷いた。
男は不貞腐れた表情で、倉庫から出ていった。
残されたのはタロージローとわたしと安室さん。
『盗聴器等の確認が終わるまで、気を抜かないように。』
と、インカムで聞こえてきたので、再び顔に力を入れた。